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低賃金職場における移民と人種問題を検証した本

公開日
2025-10-20
メディア
Cornell Chronicle
記事要約
米コーネル大学ILRスクールの研究者らが共同執筆した新刊『Legalized Inequalities: Immigration and Race in the Low-Wage Workplace』(ラッセル・セージ財団出版)は、アメリカの低賃金労働現場で移民労働者、とりわけ有色人種の労働者が直面している差別や権力の乱用などの構造的問題を明らかにしている。本書は、こうした不平等が過去と現在の米国政府の政策によって制度的に支えられていると指摘し、労働法・移民法・公民権法の改革を通じて労働環境を再構築する必要があると訴えている。

著者はILRスクールのカティ・L・グリフィス教授、シャノン・グリーソン教授、ILR労働者研究所のパトリシア・カンポス=メディナ所長、カリフォルニア大学バークレー校のダルリーン・デュビュイソン助教授の4人。研究は2015年に始まり、ハイチ系および中米出身の低賃金労働者300人以上、支援団体関係者50人以上へのインタビューをもとに構成されている。

第1部では、米国の「雇用随意制(at-will employment)」により、労働者がいつでも解雇され得る不安定な立場に置かれ、劣悪な条件を受け入れざるを得ない状況が説明される。第2部では、移民ステータスの違いが労働経験に与える影響を分析。無書類(不法滞在)、一時的滞在、永住者の三つのグループを比較し、とりわけ一時保護ステータス(TPS)保持者が、政府に所在を把握されている分、最も不安定さを感じていることが明らかになった。

第3部では、奴隷制や植民地主義の歴史が、現在の移民労働者の扱われ方にどのように影響しているかを考察している。ハイチ系労働者の中には、自らの労働環境を「奴隷のようだ」と表現する人も多かったという。こうした差別や侮辱的な扱いは、雇用主だけでなく、同僚や顧客、利用者からも受けることが多いと報告されている。

また、1986年に制定された法律によって、雇用主が従業員の就労資格を確認する義務を負うようになった結果、雇用主が“ミニ移民当局”のような権力を持ち、労働者との力関係がさらに不均衡になったと指摘する。

著者らは、労働権利の監督機関への資金増額、雇用主による在留資格確認義務の撤廃、差別被害を証明しやすくする制度整備などを政策提言として挙げている。そして、移民問題と人種的不平等を労働研究の中心に据える新しい研究パラダイムの必要性を訴えている。
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