[ブログ]在留手数料の引き上げが問いかけるもの

2026-09-30

2026年10月1日から、外国人の在留資格変更や在留期間更新などにかかる手数料が大幅に引き上げられる。山陽新聞の記事では、政治的理由から母国を離れ、日本で難民認定を申請している東アフリカ出身の男性が取り上げられている。男性は就労許可を得ているものの、季節労働が終了して現在は無職であり、貯金も約20万円だという。このような状況で在留手続きの費用が引き上げられることに、「このまま生活できるのか心配だ」と不安を語っている。

「受益者負担」だけでは説明できない在留手続き

行政手続きには審査やシステム運営などのコストが発生する以上、一定の手数料を求めること自体には合理性がある。しかし、在留手続きには一般的な行政サービスとは異なる性質がある。在留資格の更新は、外国人が任意に購入するサービスではない。日本で適法に生活し、働き続けるために法律上必要となる手続きである。したがって、単純な「サービスの受益者が費用を負担する」という考え方だけでは十分に説明できない。手数料が高額になれば、経済的に弱い立場にある外国人ほど適法な在留状態を維持するための負担が重くなるからである。

均衡共生モデルが重視する「管理と共生の均衡」

私が提唱する「均衡共生モデル(Balanced Coexistence Model:BCM)」は、外国人政策を「受け入れるか、排除するか」という二項対立で捉えない。国家には国境と在留を適切に管理する責任があり、外国人にも在留制度を遵守する責任がある。一方で、国家が制度遵守を求めるのであれば、外国人が現実にその制度を遵守できる環境を設計することも必要である。つまり「厳格な管理」と「外国人への配慮」は対立するものではなく、むしろ相互に補完されるべきものである。

制度遵守のコストを高くするという矛盾

今回の問題をBCMの観点から見ると、重要なのは「適法な状態を維持するためのコスト」という視点である。外国人に在留資格の適正な更新を求めながら、その手続きの経済的負担を大きくすれば、制度遵守そのものが困難になる人が生じる可能性がある。これは政策として注意すべき逆説である。外国人政策の目的が適正な在留管理であるならば、制度を守ろうとする人が制度から脱落しにくい仕組みを作ることも、在留管理の一部でなければならない。

難民申請者は一般的な就労外国人と同じなのか

特に考える必要があるのが難民申請者である。難民申請者の中には、就労機会が限定され、家族や母国から十分な経済的支援を受けられない人もいる。記事の男性も就労許可を得ながら、仕事を見つけること自体に困難を抱えているという。このような人と、安定した所得を持つ就労外国人を、手数料負担の面でほぼ同じ枠組みに置くことが適切なのかは検討の余地がある。形式的な平等と、実質的な公平は必ずしも一致しない。

減額制度があっても「崖」が生まれる

もちろん、今回の制度には経済的に困窮する人への減額措置が設けられている。しかし記事によれば、その対象は生活保護受給レベルの困窮者を中心とするため、多くの難民申請者が対象外となる可能性がある。ここには社会保障制度でも繰り返し問題となる「崖」が生じる。減額基準をわずかに上回る所得や資産があれば通常料金を負担しなければならない一方、その人に十分な支払能力があるとは限らないからだ。BCMの考え方からすれば、「減額するか、しないか」という二段階だけでなく、所得、資産、扶養家族、在留期間、申請頻度などを考慮した段階的な負担設計も検討に値する。

手数料を「価格」ではなく政策装置として考える

重要なのは、在留手数料を単なる行政サービスの価格として考えないことである。手数料の設定は、外国人の行動にも影響を与える政策装置である。高額な手数料によって申請をためらう人が増えれば、結果として行政が把握しにくい外国人を生み出す可能性もある。反対に、オンライン申請など行政コストの低い手段を利用した場合の負担を軽くすることや、安定した在留・納税・社会保険加入などと制度的インセンティブを組み合わせる方法も考えられる。RegTechや行政DXを進めるのであれば、審査効率化によって生じた行政コストの低下を利用者側にも還元するという発想も必要だろう。

「厳格化」と「支援」は同時に成立する

BCMが目指しているのは、外国人に無条件に寛容な制度ではない。むしろ在留管理の透明性を高め、ルールを明確化し、そのルールを公平に執行することを重視する。ただし、ルールを守る意思がある人が経済的理由だけで制度から脱落する構造は可能な限り避けるべきである。不正には厳格に対応する一方、適法な在留を維持しようとする人には制度遵守を可能にする経路を確保する。この二つは矛盾しない。

「管理する制度」から「遵守できる制度」へ

今回の手数料引き上げは、単なる値上げの問題ではない。外国人政策における費用負担、公平性、在留管理、人道的配慮をどのように組み合わせるのかという制度設計の問題である。均衡共生モデルの観点から最も重要なのは、「外国人にルールを守らせる制度」だけではなく、「外国人がルールを守り続けられる制度」を構築することである。国家による適正な管理と外国人による制度遵守、その双方を持続可能にする地点を探すことこそが「均衡」である。在留手数料についても、財政上の合理性だけでなく、その金額が外国人の生活と制度遵守にどのような行動変化をもたらすのかまで検証する必要がある。そこまで含めて設計することで、管理と人権、国家と外国人を対立させない、持続可能な共生政策に近づくのではないだろうか。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。