[ブログ]永住制度の歴史 ― 「永住する外国人」から「定着した外国人」へ ―

2026-08-17

現在の制度だけでは見えないもの

現在の永住制度を見ると、長期間日本に在留し、安定した生活基盤を形成し、公的義務を適正に履行してきた外国人が、一定の審査を経て「永住者」という在留資格を得る制度として理解されている。実際、現在の永住許可に関するガイドラインでは、素行、独立生計、日本国の利益への適合に加え、納税、公的年金、公的医療保険の保険料納付、入管法上の届出など、公的義務の適正な履行が重視されている。しかし、この制度が最初から「日本社会に長期間定着した外国人を承認する制度」として設計されていたわけではない。永住制度の歴史を遡ると、現在とは異なる制度思想が見えてくる。

1951年の出入国管理令

現在の出入国管理及び難民認定法の原型は、1951年に制定された出入国管理令である。戦後、日本の出入国管理制度を再構築するために制定されたこの法令は、外国人をその入国・在留目的によって分類し、在留資格と在留期間によって管理する現在の制度の基本構造を形づくった。現在の入管法も、第1条で「本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理」を目的の一つとして掲げている。出入国管理及び難民認定法の基本構造には、この戦後に形成された「外国人の入国と在留を法的カテゴリーによって管理する」という考え方が今も受け継がれている。

「本邦で永住しようとする者」という在留資格

制定当初の出入国管理令で特徴的なのは、永住が現在のように、すでに日本に長期間住んだ外国人だけを念頭に置いた制度ではなかったことである。当時の制度では、「本邦で永住しようとする者」というカテゴリーが存在し、外国から日本へ入国する段階で、永住を目的とする者が制度上想定されていた。国立国会図書館の出入国管理制度に関する調査資料も、平成元年の入管法改正以前には、上陸手続において外国人が「永住者」の在留資格を取得することがあり得る制度であったことを指摘している。国立国会図書館「我が国における出入国管理制度の概要」からも、永住が当初、国内での長期在留の結果としてのみ与えられる地位ではなかったことが分かる。

「定着した者への承認」ではなく「恒久的に居住する外国人」というカテゴリー

ここから分かるのは、制度創設時の永住は、現在私たちが考える「長期在留の結果としての定着承認」とは性格が異なっていたということである。当時の制度では、観光、事業、就労、研究、教育などと同じように、「日本に恒久的に住む」ということ自体が一つの在留類型として置かれていた。すなわち、制度上の中心的な発想は、外国人が日本社会にどれだけ統合されたかを評価して地位を与えることではなく、外国人を一時的に居住する者と恒久的に居住する者に分類することにあったと考えられる。

永住は当初から無条件ではなかった

もっとも、当時の制度が「日本にずっと住みたい外国人は自由に住んでよい」というものだったわけではない。永住については、独立した生計を営む能力や、その者の永住が日本国の利益に合することなどの要件が設けられていた。現在の永住許可制度にも引き継がれている「日本国の利益に合すること」という考え方は、制度の初期から永住判断の中心に存在していた。したがって、永住は当初から国家による選別を伴う法的地位であった。ただし、その選別基準が存在することと、「永住制度によって社会に何を実現するのか」という制度目的が存在することは別である。

戦後日本と外国人管理という出発点

1951年という時代背景も無視できない。日本はまだ連合国による占領下にあり、主権回復前であった。戦前から日本に居住していた朝鮮半島や台湾出身者の法的地位、戦後の人口移動、国籍の再編など、多くの問題を抱える中で、外国人の入国・在留を統一的に管理する制度を整備する必要があった。出入国管理令は、そのような環境の中で成立した制度である。したがって、永住も「社会統合政策」の一部として考案されたというより、戦後日本が外国人の法的地位を分類し、管理するための体系の一部として理解する方が自然である。

特別永住者が示す別の歴史

この歴史を考える際には、一般の永住者と特別永住者を区別する必要がある。戦前から日本に居住していた旧植民地出身者とその子孫については、一般の永住制度とは異なる歴史的事情を背景として、1991年に特別永住者制度が設けられた。特別永住者については、その歴史的経緯から、なぜ安定した在留地位を保障する必要があるのかを比較的明確に説明することができる。実際、入管特例法は、特別永住者に対する再入国許可制度の運用に際しても「特別永住者の本邦における生活の安定に資する」という法律の趣旨を尊重すべきことを明記している。日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法には、少なくとも「生活の安定」という制度的価値が明示されている。一般永住者との違いは示唆的である。

平成元年改正が変えた永住の位置付け

大きな転換点となったのが1989年、平成元年の入管法改正である。この改正によって、現在につながる在留資格体系が整備され、活動に基づく在留資格と身分又は地位に基づく在留資格が体系的に整理された。その過程で、従来存在していた「上陸時から永住者となる」という制度構造は姿を消し、永住は基本的に、日本にすでに在留している外国人が一定の条件を満たした後に取得する地位へと変化していった。ここで永住制度の社会的意味は大きく変わったと考えることができる。

「永住するために来る者」から「住み続けた結果として永住する者」へ

この変化を単純化して表現すれば、かつての永住制度は「日本に永住することを目的として入国する外国人」を想定していたのに対し、現在の制度は「別の在留資格で日本に入り、日本で長期間生活した結果として永住を認められる外国人」を中心としている。ここには重要な意味の転換がある。前者では、永住は入国目的の一つである。後者では、永住は長期間の在留、生活基盤、社会との関係、公的義務の履行などを評価した結果として与えられる地位である。つまり、制度はいつの間にか「恒久的に住む外国人を分類する制度」から「日本社会への定着を評価する制度」へと近づいていったのである。

許可基準は「定着」を強く見るようになった

現在の永住許可に関するガイドラインを見ると、この変化はさらに明確である。一定期間の継続在留だけでなく、素行、生計、納税、公的年金、公的医療保険、入管法上の届出など、外国人が日本社会の中でどのように生活してきたかが具体的に評価される。永住許可の判断は、単に「これから日本に永住してよいか」という将来予測だけではなく、「これまで日本社会の中でどのような生活を築いてきたか」という過去の実績を評価する制度になっている。

永住者は「社会への定着性」が高い者と認識されるようになった

政府の説明や国会審議でも、永住者は他の外国人とは異なる高い定着性を有する者として扱われるようになった。これは、制度創設時の「恒久的居住者」という分類から、社会的実態を伴う「定着した外国人」という認識への変化を示している。日本で長期間生活し、家族、仕事、住宅、地域、社会保障など多層的な関係を形成した外国人について、通常の在留期間管理から外れた地位を与えるという制度的意味が、徐々に形成されてきたのである。

2012年、永住者も中長期在留者として管理される

しかし、永住者の地位が「定着した社会構成員」に近づいたからといって、入管法上の在留管理から離れたわけではない。2012年に新たな在留管理制度が導入されると、一般の永住者も中長期在留者として在留カード制度の対象となった。これは、永住者が活動制限や在留期間更新から解放されていても、法的には依然として外国人の在留管理制度の内部に位置することを意味する。永住は「外国人管理からの卒業」ではなく、外国人管理制度の中で最も安定した地位の一つなのである。

2024年改正が提起した新しい問題

さらに、2024年の入管法改正による永住許可制度の適正化は、永住制度の性格を改めて問い直す契機となった。出入国在留管理庁は、永住者について在留期間更新の審査がないため、永住許可後に公的義務を適正に履行しなくなった場合でも、その状況を定期的に確認する機会がないという問題意識を示している。永住許可制度の適正化Q&Aでは、そのような観点から永住者の在留資格取消制度の見直しが説明されている。これは、永住許可時の審査だけではなく、永住後の行動や義務履行まで制度が継続的に問題にする方向へ変化していることを示す。

入口だけでなく「永住後」も評価する制度へ

この変化には慎重な検討が必要である。従来の永住制度は、厳格な入口審査を通過すれば、その後は非常に安定した地位を得られるという性格を持っていた。ところが永住後についても一定の義務履行を地位の維持と結びつけるなら、永住は単なる「一度認められれば原則として継続する地位」から、「社会の構成員としての責任を継続的に果たすことを条件とする地位」へ近づいていく。この方向が正しいかどうかを判断するためにも、そもそも永住制度が何を実現するための制度なのかを定義する必要がある。

制度の機能は変わったが、目的は再定義されたのか

ここに、日本の永住制度が抱える根本的な問題がある。1951年当時の制度は、「日本に恒久的に居住する外国人」を外国人管理上の一類型として位置付けることで一定の説明が可能であった。しかし現在の永住制度は、長期間の在留、生活基盤、公的義務、社会への定着などを評価して地位を付与する制度へと変化している。それにもかかわらず、「なぜそのような者に特別に安定した法的地位を与えるのか」という制度目的について、同じ程度の再定義が行われてきたとは言い難い。

「管理のカテゴリー」から「社会的地位」へ

この歴史を通じて見えてくるのは、永住という概念そのものの変化である。制度創設時の永住は、外国人管理における「permanent」と「temporary」の区別として理解することができた。しかし現在の永住者は、日本に長く住み、社会保障を支え、家族や地域と関係を築き、日本社会の中に生活の本拠を形成した者である。永住はもはや単なる在留期間の分類ではない。実質的には、その外国人と日本社会との関係の深さを表す法的地位へと変化している。

歴史が残した制度的な空白

問題は、この変化が明確な理念の転換として行われたのではなく、制度運用と社会の変化の積み重ねによって徐々に生じたことである。そのため、日本には「永住者に何を要求するか」という許可基準や管理制度は存在する一方、「永住者を社会の何として位置付けるのか」という積極的な定義が弱いまま残されている。これは、制度の欠陥というより、制度史が残した空白と見ることができる。

歴史を知ることは、永住制度を再設計する第一歩である

均衡共生モデルが永住制度を考える際、重要なのは過去の制度を単純に批判することではない。1951年の日本と現在の日本では、外国人の数も、社会との関係も、経済構造も、家族形成も大きく異なっている。当時合理的であった「外国人管理上のカテゴリー」としての永住が、現在もそのまま十分な説明力を持つとは限らない。制度の歴史を理解したうえで、現代の日本社会における永住の意味を改めて定義する必要がある。

「定着した外国人」を社会はどう扱うのか

永住制度の歴史は、一つの問いへ収斂する。かつての日本は、「日本に恒久的に住もうとする外国人」をどのように管理するかを考えた。現在の日本が問われているのは、「すでに日本に長期間住み、日本社会の中に生活基盤を形成した外国人を、社会の中でどのような存在として承認するのか」という問題である。この二つは似ているようで、制度設計上は大きく異なる。前者は外国人管理の問題であり、後者は社会構成員性の問題だからである。

永住制度は次の段階へ進めるか

日本の永住制度は、「永住する外国人」を分類する制度として始まり、「定着した外国人」を選別する制度へと変化してきた。次に問われるのは、その定着をどのような法的意味に転換するかである。日本社会に長期的な基盤を築き、社会への責任を果たしてきた外国人を、単に在留期間の制限を受けない者として扱うのか。それとも、日本社会との恒久的な関係を持つ構成員として法的に承認するのか。制度の歴史が示しているのは、永住という法的地位がすでに変化してきたという事実である。だからこそ、その次の段階を意識的に設計することができる。永住制度の歴史を振り返ることは、過去を知るためだけではない。日本がこれから「定着した外国人」とどのような関係を築くのかを考えるための出発点なのである。


※本稿は、均衡共生モデルにおける目次を構成する章に位置付けています。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。