[ブログ]変えることより、変え方が問われる――永住許可と「経営・管理」の厳格化から考える制度的信頼

2026-08-05

入管政策に必要な「時間軸の一貫性」

法制度は、社会情勢の変化に応じて見直されなければならない。制度の悪用が生じ、従来の要件では政策目的を実現できなくなったのであれば、国が許可要件を厳格化すること自体は否定されるべきではない。しかし、法制度は、その時点で合理的であればよいというものでもない。過去に示した基準との関係、現在の運用の統一性、将来の予測可能性という時間軸の中で、一定の一貫性を備えている必要がある。

この要請は、法的安定性、信頼保護、予見可能性、不遡及、平等原則などとして法学上それぞれ論じられてきた。これらに共通するのは、人が法制度を前提として生活や事業を設計できなければ、法治国家に対する信頼は成り立たないという考え方である。昨日まで制度が推奨していた行動を、今日になって十分な説明もなく不利益に評価するならば、法令の形式が守られていても、制度的信頼は損なわれる。

問題は厳格化そのものではない

近時の永住許可や在留資格「経営・管理」をめぐる政策には、この時間軸の一貫性という観点から検討すべき問題がある。重要なのは、外国人に対して厳しいか、緩いかという二者択一ではない。政策目的に合理性があるとしても、その変更理由が明確に説明され、従来の制度との関係が整理され、影響を受ける人に十分な準備期間が与えられているかが問われる。

入管行政には、個々の在留状況、活動内容、家族関係、経済状況などを総合的に判断する必要があるため、一定の裁量が不可欠である。しかし、裁量が広いことは、説明を省略してよい理由にはならない。むしろ裁量の幅が大きいほど、判断基準の透明性、類似事案における一貫性、処分理由の説明可能性が強く求められる。裁量は、基準の不存在を意味するものではなく、法の目的に沿って合理的に統制されるべき判断領域である。

永住許可が持つ生活設計上の意味

永住許可は、単なる在留期間の長い許可ではない。活動内容や在留期間の制限がなく、日本で長期的に生活する者にとって、就労、住宅取得、融資、子どもの教育、家族形成などの生活設計を支える基盤となる。入管法上、永住許可は法務大臣が「日本国の利益に合すると認めたときに限り」許可できる制度であり、もともと広い裁量を伴っている。出入国管理及び難民認定法を見ても、永住許可が当然に取得できる権利として構成されていないことは明らかである。

しかし、許可に裁量があることと、基準が予測できなくてよいことは同じではない。出入国在留管理庁は、永住許可に関するガイドラインによって、素行、生計、公的義務の履行、在留期間などの判断要素を公表している。近時の改訂では、現に有する在留資格について上陸許可基準等に適合していることなども明示されている。基準を明らかにすること自体は透明性を高めるが、従来から日本で生活してきた人に新たな評価要素を適用する場合には、その目的、適用時期、既存の生活関係への影響を丁寧に説明する必要がある。

永住後の地位まで不安定にする危険

永住者の公的義務の不履行などをめぐる制度見直しについても、制度の適正化という目的だけで評価することはできない。故意に納税義務等を免れようとする行為への対応は必要である一方、病気、失業、事業不振、制度理解の不足など、履行できなかった事情は多様である。永住という安定した地位を与えた後に、どのような行為が、どの程度の期間・態様で、その地位の取消しや変更につながるのかが不明確であれば、永住者は将来を予測できない。

出入国在留管理庁は、永住許可制度の適正化に関するQAを公表し、直ちに一律取消しとなるものではないことや、個別事情を考慮する考え方を説明している。こうした説明は重要である。しかし、本当に制度的信頼を確保するためには、行政庁内部の判断に委ねるだけでなく、取消しと在留資格変更の区別、考慮される事情、改善機会の有無などを、可能な限り客観的な形で示す必要がある。

「経営・管理」の急激な要件変更

在留資格「経営・管理」の許可基準の見直しは、時間軸の一貫性という問題をさらに鮮明にする。出入国在留管理庁によれば、改正された基準は2025年10月16日に施行され、事業規模に関する基準が3000万円へ引き上げられたほか、常勤職員、申請人の経歴、事業計画の確認、日本語能力など、複数の要件が強化された。詳細は在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正についてに示されている。

実体のない会社や、在留資格の取得だけを目的とする事業を排除する必要性は理解できる。しかし、従来の基準を満たして適法に来日し、事業所を借り、従業員や取引先との関係を築いてきた経営者に対して、後から大幅に高い基準への適合を求めることには慎重さが必要である。新規入国者に将来の基準を適用することと、既に制度を信頼して投資し、生活基盤を形成した在留者の更新に適用することでは、信頼保護上の意味が異なる。

経過措置が設けられているとしても、期間を置けば問題が解消するとは限らない。重要なのは、既存事業者が新基準に適合できるかだけではなく、従来の許可を信頼して行った投資や契約をどの程度保護するかである。小規模でも地域に根差し、雇用や取引を生み出している事業と、制度を形式的に利用するだけの事業を、資本金などの画一的指標だけで区別できるのかも検討されなければならない。

立法と施行の双方に求められる統制

制度的信頼を守る責任は、審査を行う入管当局だけにあるのではない。立法段階では、なぜ従来の制度では対応できないのか、どのような事実を根拠として要件を変更するのか、より制約の小さい手段では目的を達成できないのかを説明する必要がある。施行段階では、基準を公開し、地方局や担当者による判断のばらつきを抑え、不許可や取消しの理由を当事者が理解できる形で示さなければならない。

特に問題なのは、法律や省令の文言ではなく、ガイドライン、提出書類、内部運用、個別照会への回答などによって、実質的な許可水準が変わる場合である。形式的な法改正を伴わない運用変更は迅速である一方、国会審議や十分な周知を経ないまま当事者に重大な影響を及ぼし得る。裁量行政においては、何を法律で定め、何を省令や告示に委ね、何を審査実務に残すのかという統制構造そのものが問われる。

均衡共生モデルから見た制度変更の原則

均衡共生モデルは、在留制度を緩和すべきだとも、厳格化してはならないとも考えない。受入国の秩序、制度の悪用防止、国民の利益を守ることと、外国人の生活、投資、家族関係、正当な期待を保護することを、制度として均衡させる立場である。その中心にあるのが、理解できること、予測できること、頼ることができるという制度的信頼である。

この観点からは、次のような「制度変更一貫性原則」を提示できる。国家は、社会状況の変化に応じて在留制度を見直すことができる。しかし、その変更は、客観的な事実に基づき、従前の制度との関係が説明され、既存の法的地位や正当な信頼に配慮し、当事者が将来の結果を合理的に予測できる方法で実施されなければならない。裁量は、一貫性、透明性、理由提示、経過措置によって統制されるべきである。

厳格な制度ほど信頼されなければならない

入管政策において、厳格さと信頼は対立するものではない。明確な基準が公平に適用され、違反には相応の対応が行われる制度は、むしろ信頼され得る。問題は、基準が短期間に変わり、変更理由が十分に説明されず、過去に適法とされた行動が後から不利益に評価されることである。

永住許可や「経営・管理」の見直しをめぐって問われているのは、外国人をどこまで受け入れるかだけではない。国家が一度示した制度をどのように変更し、その制度を信頼して人生や事業を築いた人々にどう向き合うかという、法治国家そのものの姿勢である。制度は変えることができる。しかし、変えるのであれば、変化の理由と範囲を説明し、過去との連続性を保ち、将来を予測できるようにしなければならない。それが、秩序と共生の双方を支える制度的信頼の最低条件である。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。