[ブログ]「私たちは日本にいていいのか」――経営・管理ビザの厳格化と均衡共生モデル

2026-08-03

外国籍経営者が抱える制度変更への不安

弁護士ドットコムニュースは2026年8月1日、「私たちは日本にいていいのか」経営・管理ビザ厳格化、リトルインディアの父が語る「外国籍経営者」の危機と題する記事を掲載した。記事では、東京・西葛西で長年にわたり日本人住民とインド人コミュニティーの交流を支えてきた、江戸川インド人会会長のジャグモハン・チャンドラニ氏への取材を通じ、在留資格「経営・管理」の許可基準の厳格化が、小規模な外国籍経営者に与えている影響を伝えている。

「経営・管理」の許可基準は2025年10月に大きく改められ、法人の場合には原則として3000万円以上の資本金等が求められるようになった。加えて、常勤職員の雇用、経営者の学歴または職歴、日本語能力を有する者の配置など、事業の規模、経営能力および継続性を確認するための要件が強化された。制度の悪用や、実態のない会社による在留資格取得を防止することが、その背景にある。

真面目に経営してきた小規模事業者への影響

記事が焦点を当てるのは、制度を悪用した者ではなく、日本で店舗を構え、納税し、地域社会との関係を築きながら、長年にわたり事業を続けてきた小規模事業者である。とりわけインド・ネパール料理店などの飲食業では、物価高や円安による仕入れ費用の上昇、人件費や社会保険料の負担に直面しながら、地域住民が利用できる価格を維持している店舗も少なくない。

そのような事業者にとって、3000万円という資本金要件は、単なる書類上の変更ではない。記事では、2024年経済センサスをもとに、資本金3000万円以上の企業は日本企業全体でも8.7%にすぎないと紹介されている。日本人が経営する多くの中小企業にも求められていない規模を、在留資格の維持と結び付けて外国籍経営者に要求することが、実態に即した政策なのかという問題が提起されている。

もちろん、記事中の個別事例や当事者の発言は、制度の影響を示す証言として慎重に受け止める必要がある。しかし、「要件を満たせなければ店を閉めるしかない」「今後さらに制度が厳しくなるのではないか」「自分たちは日本にいてよいのかわからない」という不安が広がっていること自体は、制度に対する信頼を考えるうえで軽視できない。

厳格化か緩和かという二択ではない

この問題は、外国人経営者を無条件に受け入れるべきか、それとも厳しく排除すべきかという二択で考えるべきではない。実態のない会社、在留資格取得のみを目的とする形式的な起業、租税や社会保険料の不履行、名義貸しなどが存在するのであれば、行政が適正化を図ることには合理性がある。事業を営む者には、法令を守り、雇用や取引に責任を持ち、税および社会保険に関する義務を果たすことが求められる。

一方で、問題事例を排除するために設定した一律の数値基準が、実態のある事業者まで市場から退出させるのであれば、制度は目的と手段の均衡を失う。重要なのは、厳格であるか寛容であるかではなく、守るべき公益に対して、規制の内容が必要かつ相当であるかという比例性である。

均衡共生モデルとの第一の接点――制度の予測可能性

均衡共生モデルは、制度に対する信頼を「理解できること」「先を予測できること」「制度を頼ることができること」の組合せとして捉える。経営者は、許可された在留期間だけを見て事業を行うのではない。店舗を借り、設備を購入し、従業員を雇い、取引先との関係を築き、家族の生活や子どもの教育を日本社会の中に組み込んでいく。

その途中で前提となる基準が大幅に変更され、将来の更新可能性を判断できなくなれば、形式上は経過措置が設けられていても、制度への信頼は損なわれる。制度変更は必要になり得るが、その理由、対象となる問題、期待される効果、既存事業者への影響、経過措置後の判断方法まで説明されなければならない。「三年間の猶予がある」というだけでなく、三年間に何を改善すれば、どのような評価を受けられるのかが見えることが必要である。

第二の接点――資本金ではなく経営実態を見る

資本金は、事業の安定性を測る一つの指標ではある。しかし、資本金が大きいことと、適正な事業運営が行われていることは同じではない。反対に、資本金が小さくても、長年にわたり売上を維持し、従業員を雇用し、家賃、税金、社会保険料を支払い、地域に必要とされている事業は存在する。

均衡共生モデルの立場からは、資本金という単一の入口基準だけでなく、売上、利益、納税、社会保険加入、雇用、取引実績、事業継続年数、許認可、地域経済への貢献などを組み合わせ、事業の実態を継続的に評価する仕組みが望ましい。悪用を防ぐための確認を厳格にしながら、実体のある事業者には改善や事業再建の機会を与える。このような段階的で説明可能な審査こそ、管理と共生を両立させる。

第三の接点――義務と支援を一体化する

共生とは、外国籍経営者の権利だけを保護することではない。経営者にも、適正な会計、納税、社会保険、労働法令の遵守、日本語による行政対応などの責任がある。しかし、義務を課すのであれば、それを履行できる制度的な支援も必要である。

例えば、更新期限の直前に不備を指摘するのではなく、税、社会保険、在留資格、法人登記などの情報を連携させ、問題が小さい段階で改善を促すことが考えられる。未納や手続漏れがあれば早期に通知し、分割納付や専門家相談、事業改善計画につなげる。意図的な不正と、知識不足や一時的な経営難とを区別することも必要である。これは規制を弱めるのではなく、違反を未然に防ぎ、適法な経営を増やす予防的ガバナンスである。

街の多様性も制度設計の結果である

記事では、外国籍経営者の店舗がなくなることは、本人や家族だけでなく、街の選択肢、建物の賃貸、地域雇用、生活の豊かさにも影響すると指摘されている。外国人経営者を受け入れることが常に地域利益になるとは限らないが、排除することが当然に日本の利益になるわけでもない。

制度は、誰を入国させるかを決めるだけではない。どのような産業、商店街、地域社会を将来に残すのかを間接的に決めている。だからこそ、在留資格制度は、不正防止という一つの目的だけでなく、雇用、地域経済、産業政策、家族生活および社会統合への影響を含めて設計されなければならない。

「日本にいてよいのか」と問わせない制度へ

均衡共生モデルが目指すのは、外国人を無条件に受け入れる社会でも、問題が起きる前から排除する社会でもない。社会の安全、法令遵守、公平な負担を確保しながら、適法に努力してきた者が、制度の突然の変化によって将来を失わない社会である。

経営・管理ビザの厳格化をめぐる問題が示しているのは、許可基準の数字だけではない。制度が人に何を期待し、人がその期待に応えるために何をすればよいのかが、相互に見える状態をつくれるかという問題である。行政は判断の理由と改善への道筋を示し、経営者は事業の実態と義務の履行を示す。その往復によって初めて、管理は信頼へと変わる。

「私たちは日本にいていいのか」という問いに、感情的な歓迎や拒絶で答えるべきではない。法令を守り、地域社会の一員として責任を果たし、事業を継続する意思と実態がある者に対しては、その努力が予測可能な形で評価される制度を用意する。それが、不正を放置せず、同時に社会の活力も失わない、均衡共生モデルに基づく入管政策の姿である。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。