[ブログ]病で倒れた技能実習生を「特例」で終わらせないために――在留申請APIとImmigration RegTechの可能性
2026-06-16
HBC北海道放送の記事は、ベトナム人技能実習生のズオン・ゴツク・トゥさんが、2019年に札幌で働いていた際、19歳で脳動静脈奇形を発症して倒れ、その後7年間にわたり意識不明のまま療養を続けている事例を紹介している。
7年間続いた支援と制度の空白
トゥさんは技能実習生として来日し、札幌で働いていた。しかし突然の病により就労継続が不可能となり、長期療養を余儀なくされた。技能実習制度は本来、就労と技能修得を前提とする制度であり、重い病気や事故によって長期間働けなくなる事態を中心には想定していない。そのため、在留期限が到来すれば不法滞在となるおそれもあった。
しかし、入管、自治体、監理団体、医療関係者、支援者らが連携し、「告示外特定活動」の在留資格取得、国民健康保険、障害年金などを活用することで、日本での療養継続が可能となった。また、支援者らは7年間にわたりベトナムの家族とのビデオ通話を続け、2026年には両親と兄が初めて来日し、再会を果たした。
問題は制度がないことではなく、制度に繋がれていないことである
この事例を考える上で重要なのは、支援が実現したこと自体ではなく、それが一般的な仕組みとして保証されていたわけではないという点である。国民健康保険、障害年金、医療機関、自治体支援、在留資格上の個別対応など、利用可能な制度は存在していた。しかし、それらは最初から一つの支援ルートとして接続されていたわけではなかった。
つまり本質的な問題は、「制度が存在しないこと」だけではない。むしろ、「誰が、いつ、どの制度を、どの順番で利用できるのかが分からないこと」である。外国人本人、家族、病院、受入企業、監理団体、自治体、入管がそれぞれ別々に動く中で、支援者の努力によって制度がつながれた。これは美談であると同時に、制度の接続が個人の善意に依存している現実を示している。
均衡共生モデルから見る制度の断絶
均衡共生モデルは、外国人を単なる労働力ではなく、地域社会で生活する一人の住民として捉える。外国人が日本で暮らす以上、病気、事故、障害、失業、家族との分離といった生活上のリスクは当然に発生する。にもかかわらず、制度が「働ける外国人」だけを前提に設計されていれば、働けなくなった瞬間に支援の道筋が見えなくなる。
この問題は、入管制度だけで解決できるものではない。在留資格、医療保険、民間保険、年金、金融、自治体支援、家族連絡、通訳支援が接続されて初めて、外国人の生活は支えられる。均衡共生モデルが重視するのは、この「制度間の接続性」である。
在留申請APIを基盤としたImmigration RegTech
ここで重要になるのが、在留申請APIを基盤としたImmigration RegTechである。在留資格情報は、外国人が日本社会の制度にアクセスする際の基礎情報である。どの在留資格で、いつまで在留でき、どのような活動が認められ、どの機関に所属しているのか。この情報が適切に管理され、本人の同意に基づいて必要な機関と連携できれば、医療保険、損害保険、金融サービス、自治体支援へのアクセスは大きく改善する。
たとえば、在留申請APIを通じて、在留期限、所属機関、就労状況、家族情報、緊急連絡先、保険加入状況を安全に連携できれば、重病や事故が発生した際に、病院、受入企業、監理団体、行政書士、自治体、保険会社が早期に必要な対応を把握できる。これは個人情報を無制限に共有するという意味ではない。本人同意、利用目的の限定、必要最小限の情報連携を前提に、制度への到達を支援する仕組みである。
医療保険・損害保険へのアクセスを改善する
外国人労働者にとって、医療保険や損害保険へのアクセスは生活の安定に直結する。公的医療保険に加入していても、制度を十分に理解していない場合がある。また、入院、後遺障害、就労不能、家族来日、帰国支援などは、公的制度だけでは十分に対応できないこともある。
そこで、在留申請APIと保険会社のサービスを連携させることで、在留資格や就労形態に応じた医療保険、傷害保険、所得補償保険、帰国支援保険などを案内できるようにする。外国人本人にとっては、自分に必要な保障を理解しやすくなる。受入企業にとっては、万一の事故や病気に備えたリスク管理が可能になる。保険会社にとっては、在留外国人という成長市場に対して、適切な商品設計と説明責任を果たしやすくなる。
支援者の善意から、制度アクセスのインフラへ
今回の事例では、支援者が7年間にわたり家族との連絡を維持し、関係機関をつなぎ続けた。その努力は尊い。しかし、今後外国人労働者がさらに増加する社会において、同じ対応をすべて個人の善意に依存することはできない。
均衡共生モデルが目指すのは、新しい巨大な福祉制度を作ることではない。既に存在する在留制度、医療制度、保険制度、金融制度、自治体支援を、外国人が実際に利用できる形で接続することである。その中心に、在留申請APIを基盤とするImmigration RegTechを位置づけることができる。
「特例」を再現可能な仕組みに変える
トゥさんの事例は、日本社会の温かさを示す一方で、制度の断絶を明らかにした。必要なのは、「今回助かってよかった」で終わらせることではない。次に同じような事態が起きたとき、誰が担当しても、どの地域でも、必要な制度に接続できる仕組みを整えることである。
外国人を受け入れるとは、働いている間だけ受け入れることではない。病気になったとき、事故に遭ったとき、働けなくなったときにも、社会の制度へ到達できるようにすることである。在留申請APIを基盤としたImmigration RegTechは、そのための社会インフラになり得る。善意に依存する共生から、制度とテクノロジーによって支える共生へ。そこに、均衡共生モデルが描く新しい外国人受入れ社会の姿がある。
