[ブログ]トルコの査証免除停止は現実的か――結論は「JESTA待ち」+「予告・周知」での段階対応

2026-01-17

埼玉県知事が外務省に対し、日本とトルコの相互査証(ビザ)免除協定の一時停止を求めたという報道がありました(朝日新聞)。「査証免除を止めるべきだ」という声が出る背景には、自治体側の負担感や地域の不安がある一方で、査証免除の停止は“トルコ人全体”の短期渡航に広く影響するため、政策としては非常に重い選択肢です。本稿では、(1)査証免除措置の意味、(2)過去に「有効だった」例(ビザ免除停止で不法滞在が急減したケース)を整理し、(3)より現実的な打ち手としてのJESTA(日本版ESTA)の意味と目的を確認した上で、最終的に「全面停止ではなく、JESTA導入を待つ/導入前の予告・周知で先に抑止を効かせる」方向が合理的ではないか、という整理をします。

査証免除措置とは何か――「ビザ不要」でも「審査ゼロ」ではない

査証免除措置(ビザ免除)とは、一定の条件(観光・商用など短期滞在、滞在日数上限など)のもと、入国前のビザ取得を不要にして渡航の手続負担を下げる枠組みです。重要なのは、査証が不要でも上陸審査がなくなるわけではなく、入国審査は残るという点です。つまり、査証免除は「入口を開きやすくする」ことで交流を促進する制度であり、短期の往来が多い国同士では観光、商談、親族訪問などの利便性を高めるインフラとして機能してきました。一方で、制度が“悪用”される局面では、渡航のハードルが低いこと自体がリスク要因にもなり得ます。

過去に「有効だった」例――ビザ免除停止が不法滞在を急減させたケース

査証免除措置は交流促進に資する反面、短期入国の容易さが不法滞在の温床になり得ることも、歴史が示しています。過去の象徴的な例として、イラン人の不法滞在が社会問題化した1990年代初頭の日本があります。にしやま行政書士事務所の解説では、当時の状況として「日本とイランは観光目的の短期滞在ビザ免除を結んでいたため、航空券さえあれば簡単に日本に入国できました」と整理されています。そして対策として「1991年に政府はイランとのビザ免除措置を一時停止し、1992年からビザの取得が義務化されました。この措置により、不法滞在者数は急減し、2001年にはピークの10分の1にまで減少しました」と説明されています(同リンク)。このように、ビザ免除の停止が“入口”に強いブレーキを掛け、不法滞在の規模を抑える方向に働いた例は確かに存在します。

しかし「トルコで同じこと」をやるのが難しい理由――影響が“全体”に及ぶ

過去の成功例があるからといって、同じ手法がいつでも最適解になるとは限りません。ビザ免除停止は、特定の問題行動を抑える狙いがあっても、実際の影響範囲は“国籍単位”で広く及びます。観光、短期商用、家族訪問など正当な目的で短期渡航する人にも一律にビザ取得負担(費用・時間・手続)が生じ、航空券購入や旅行計画、企業の出張・商談にも波及します。さらに相互協定の場合、外交・往来全体への影響も論点になります。自治体の負担感が強いからといって、国が直ちに“全面停止”へ踏み切りにくいのは、この「正当な渡航者への副作用」が大きいからです。したがって、現実的な政策判断としては、全面停止は最終手段として温存しつつ、より粒度の細かいスクリーニングを強化する選択肢を優先するのが筋になります。

JESTAとは何か――ビザ免除を維持したまま「渡航前」に確認する仕組み

そこで重要になるのが、いわゆるJESTA(日本版ESTA)です。解説記事では、日本版ESTA(JESTA)について「日本に短期間滞在する外国人が事前に取得するオンラインの渡航認証システムで、特にビザ免除国からの旅行者を対象としています」と定義しています。要するに、ビザ免除を維持する場合でも「何も提出せずに搭乗して到着する」状態から、「渡航前にオンライン申請し、一定の審査・認証を経て搭乗する」状態へ切り替えることで、水際の精度を上げる狙いがあります。ビザ免除停止が“国籍全体に一律の負担”を課すのに対し、JESTAは“個別の申請情報に基づいてリスクを選別する”発想に近く、社会的コストを抑えながらスクリーニングを強化できる可能性があります。

JESTAの目的――不法滞在・犯罪リスクを「入国前」にふるい分ける

同記事は、JESTA導入の効果として「過去に不法滞在歴がある者や犯罪歴がある者、テロリズムに関連する活動が疑われる者などの高リスクな人物を入国前に特定し、渡航を許可しない措置を取ることが可能となります」と述べています(同リンク)。さらに、申請時に滞在先や渡航目的などの詳細情報を求めることで「怪しい行動や不自然な計画を持つ者を事前に特定」し得る点や、事前情報収集により「入国管理業務の効率化」にもつながる点が説明されています(同リンク)。つまりJESTAは、(1)不法滞在や不法就労目的の渡航を抑止し、(2)到着後ではなく出発前に“入口を狭め”、(3)現場の審査資源を本当に注意すべきケースへ集中させる、という目的を持つ仕組みだと整理できます。

結論――全面停止は難しい以上「JESTAを待つ」か「予告・周知で先に抑止」を効かせる

以上を踏まえると、トルコに関して「ビザ免除停止」という強い手段を直ちに取るのは、影響範囲の広さ(正当な渡航者への一律負担)を考えると政策としてハードルが高いのが実情です。過去にビザ免除停止が不法滞在抑止に有効だった例(イランのケース)があることは事実ですが、その“強さ”は同時に“副作用”でもあります。したがって、現実的には、(1)JESTA導入までの間に、渡航目的・滞在計画の確認、虚偽申告への厳正対処、入国時の審査の運用強化など「現行枠組みでできる水際の精緻化」を進めること、(2)JESTA導入を前提に、早期から「近い将来、ビザ免除でも渡航前認証が必要になる」ことを予告し、周知を徹底することで“悪用目的の渡航”に対する心理的・実務的な抑止を先に効かせること、(3)自治体の負担が一方的に増えないよう、国と自治体の情報共有や相談体制(多言語、就労・生活相談、地域調整)の支援を組み合わせること、が落としどころになりやすいと考えます。

ビザ免除は交流のための装置である一方、制度の隙が問題化すると地域が揺れます。だからこそ「止める/止めない」の二択ではなく、JESTAのようにビザ免除を維持しつつ渡航前に情報を取り、リスクを個別に選別する方向へ軸足を移すことが、社会的コストを抑えつつ秩序を確保する現実解になり得ます。結論としては、査証免除措置の停止は影響が大きく難しい以上、やはりJESTAを待つか、少なくともその予告・周知を先行させて“入口の抑止力”を早期に立ち上げる対応が、最も実務的ではないでしょうか。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。