[ブログ]【第3回】言語要件(「母国語」ではなく実務は受入れ国言語):海外例と、日本で検討する際の課題

2026-01-15

「母国語の取得レベルを在留資格取得要件に加える」という論点は、解釈を丁寧にしないと誤解を招きます。一般に、海外の在留・永住・帰化で問われやすいのは、母国語ではなく受入れ国の公用語(生活言語)です。目的は、就労の成功確率を上げ、行政・医療・教育・地域生活の摩擦を減らし、長期的な統合コストを抑えることにあります。

1. オランダ:永住・帰化に「統合(市民統合)試験」を要求する枠組み

オランダでは、より安定した在留(永住等)や帰化の申請にあたり、市民統合の要件(試験合格等)が求められるのが原則とされています(IND:Civic Integration: Residence Permit and Naturalisation)。国としても統合プログラムのルート(言語・社会参加)を案内しており、言語はCEFRのB1到達を目標とするルートが示されています(オランダ政府:Civic integration in the Netherlands)。

2. デンマーク:永住に言語試験等を“補足要件”として組み込む

デンマークでも、永住許可にあたり言語試験(Danish test 3等)を要件の一部として位置づけています(Ny i Danmark:Apply for a permanent residence permit)。こうしたモデルは「長期滞在=統合の程度を問う」という思想が明確で、国民の納得形成には寄与しやすい一方、学習環境(夜間教育、子育て世帯、低学歴・低リテラシー層、トラウマ等)への配慮が不足すると、要件が事実上の排除装置になり得ます。

3. カナダ:言語“要件”というより、選抜で“加点・優先”する

カナダのフランス語優先は、永住要件としての言語強制というより、選抜で言語能力を政策目的に沿って“優先”する設計です。政府はケベック州外フランス語コミュニティの活性化を掲げ、資金も投じています(IRCC:Canada invests in Francophone communities…)。 一方で、フランス語枠の大規模招待により、英語のみの高得点候補者が不利に感じる局面があり得る点は、制度への信頼(透明性・公平感)という課題を浮かび上がらせます(招待履歴:ITA一覧)。

4. 日本で「言語要件」を検討する際の“参考スタンス”と課題

海外例は参考になりますが、そのまま輸入すると副作用が出やすいのも事実です。日本で検討するなら、少なくとも次の論点を同時に設計すべきです。

(1)どの在留資格・どのタイミングで問うのか:入口(新規入国)で厳しくすると、人手不足職種ほど採れなくなる可能性があります。更新・永住・定住など、ステージごとに段階設計する方が現実的です。

(2)“要件化”より先に学習インフラ:日本語教育の供給(地域差・費用・勤務時間との両立)を整えずに要件だけ課すと、脱落者と地下化(無届け就労等)を増やしかねません。

(3)家族・子どもへの影響:言語要件が家族の在留の安定を左右する場合、子どもの教育機会、家族分断、地域での孤立を生むリスクがあります。ここは人道・教育政策と接続が必須です。

(4)量的マネジメントとのセット運用:量的管理だけ、言語だけ、ではなく、産業別・地域別の需要、税社保、教育・住宅の受け皿、そして違法行為には厳格に対処する運用を束ねて初めて、国民の納得と現場の実装が両立しやすくなります。

結びに、本シリーズの立場を改めて示します。海外の制度は、日本の議論を整理する“鏡”として有益ですが、答えではありません。日本で採るべきは、目的の明確化→データ整備→段階設計→教育投資→運用の透明性という順序での制度設計です。参照リンクとして、議論の入口となった記事:日経/The Star/関連資料:当事務所要約(日経)を付します。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。