[ブログ]雇用主が注目すべき転換点⑤ ― 入管政策の哲学転換と企業に求められる姿勢
2026-01-09
本稿は、出入国在留管理庁が公表している2025年版「出入国在留管理」政策および関連PDF資料を踏まえ、従来の入管政策から明確に転換しているポイントを雇用主視点で整理してきたシリーズの最終回です。第5回となる今回は、個別制度や運用論を超え、日本の入管政策がどのような思想・哲学へと移行しているのか、そしてその中で雇用主に何が求められているのかを総括します。
これまでの入管政策を支えてきた基本思想
日本の入管政策は長らく、「移民政策は取らない」という建前のもとで設計されてきました。外国人はあくまで一時的な労働力、あるいは高度人材として受け入れられ、管理対象として位置づけられてきたのが実情です。制度は細かく設計されていましたが、その根底にあったのは「秩序維持」と「例外的受け入れ」という発想でした。雇用主の役割も、制度を守る協力者という位置づけにとどまっていました。
2025年版政策が示す思想的転換
今回の政策全体を貫いているキーワードは、「共生」「定着」「持続可能性」です。外国人を単に管理する対象としてではなく、日本社会の構成員としてどのように迎え入れ、支え、共に生きていくかという視点が、制度設計の前提になりつつあります。これは、事実上「移民を前提としない移民政策」からの転換とも言えるものです。
雇用主は「規制を守る側」から「制度を支える主体」へ
この哲学転換の中で、雇用主の位置づけも大きく変わっています。これまでのように、在留資格の範囲を確認し、必要書類を提出するだけでは不十分です。雇用主は、外国人が日本で安定して働き、生活し、能力を発揮できる環境を整える「制度運用の担い手」として期待されています。支援体制の実効性、業務の適正配置、雇用の安定性といった要素は、もはや善意の配慮ではなく、制度の一部として位置づけられています。
なぜ雇用主の姿勢がここまで重視されるのか
政策文書から読み取れるのは、国家だけでは外国人の定着と秩序ある受け入れを支えきれないという現実認識です。職場は、外国人にとって日本社会と最も深く接する場であり、雇用主の姿勢がそのまま制度の成否に直結します。だからこそ、企業の管理体制、説明責任、そして価値観そのものが問われる時代になっています。
「厳格化=排除」ではないというメッセージ
近年の制度改正を「厳格化」「締め付け」と捉える声もあります。しかし2025年版政策を俯瞰すると、その本質は排除ではなく、無秩序な受け入れを防ぎ、適正な受け入れを持続可能にすることにあります。ルールを守り、外国人を適切に支える企業にとっては、むしろ予見可能性と公平性が高まる方向だと評価することもできます。
雇用主が今後持つべき視点
これからの外国人雇用において、重要になるのは「この雇用は制度趣旨に合致しているか」「本人の人生設計と無理なく接続しているか」という視点です。短期的な人手確保やコスト論だけでは、制度との摩擦が生じやすくなります。中長期的な人材戦略、教育、定着支援を含めた雇用設計が、結果として法的リスクを下げることにつながります。
シリーズ全体のまとめ
本シリーズでは、①共生重視への転換、②実態審査への移行、③企業管理責任の明確化、④データ連携とマイナンバー活用、そして⑤政策哲学の転換という5つの視点から、2025年版入管政策を読み解いてきました。共通しているのは、外国人雇用を「特別な例外」ではなく、日本社会の前提として再設計しようとする意思です。
最後に
外国人雇用をめぐる環境は、今後さらに変化していくでしょう。その中で雇用主に求められるのは、制度を恐れることでも、形だけ合わせることでもなく、政策の方向性を理解したうえで主体的に関与する姿勢です。2025年版政策は、そのスタートラインを示したに過ぎません。制度と対立するのではなく、制度を支える一員としてどう関わるかが、これからの企業価値を左右する重要な要素になるはずです。
