[ブログ]クリスマスに語られた移民へのメッセージ──分断の時代に、社会が立ち止まって考えるための言葉

2025-12-26

移民問題をめぐる議論は、どこの国でも社会の緊張を映し出します。治安、雇用、社会保障、文化摩擦といった現実的な不安がある一方で、議論が進むほど排他主義的な言葉が強まり、移民が「数」や「脅威」として語られがちになる傾向も否定できません。そうした空気の中で、2025年のクリスマスに欧米のキリスト教指導者が発した移民に関するメッセージは、宗教的教義を前面に出すというよりも、社会がどのような姿勢でこの問題と向き合うべきかを静かに問いかけるものでした。

1. 国境の現場から語られた「人間の物語」

米国とメキシコの国境に位置するテキサス州エルパソで活動するカトリック司教マーク・サイツは、米公共ラジオNPRのインタビューで、トランプ政権の移民政策について「大きな悲しみを感じる」と語りました。インタビューでは、移民の多くが家族を守り、危険から逃れ、生活を成り立たせるために行動していること、そしてその選択は立場が違えば誰もがしうるものだと述べています。詳細はNPRの記事で読むことができます。

サイツ司教の発言で印象的なのは、秩序ある移民制度や犯罪への対処そのものを否定していない点です。無秩序を望む人はいないし、犯罪行為には対応が必要だという点は社会的な共通認識だとした上で、それが大量送還という形で地域社会の生活を壊し始めたとき、多くの人が「これは自分が望んだ結果ではなかった」と感じ始めていると指摘しました。ここで語られているのは信仰の問題というより、現場で起きている社会的な違和感そのものです。

2. 移民をめぐる議論が「分断」へ傾くとき

英国では、次期カンタベリー大主教に就任予定のサラ・マラリーが、クリスマスの説教で「移民をめぐる国民的な議論が私たちを分断している」と警鐘を鳴らしました。彼女は、経済的な不安や格差が人々を疲弊させる中で、議論が対立や罵倒に変わると、社会全体がすり減ってしまうと指摘しています。その上で、家庭や地域、公共の議論の場において、他者のための「余地」を意識的につくる必要性を訴えました。この発言の背景や全文はThe Guardianの記事で紹介されています。

同記事では、ヨーク大主教スティーブン・コットレルの発言も取り上げられています。彼は、社会が「見知らぬ人」を恐れるようになっている現状に触れ、物理的な国境や壁だけでなく、人の心の中に築かれる壁こそが分断を深めていると語りました。難民やホームレス、将来に希望を持てない若者を「自分とは関係のない存在」として扱うことが、社会の想像力を貧しくしているという指摘は、移民問題に限らない普遍性を持っています。

3. これらのメッセージが示すもの

これらのクリスマスの発言は、移民政策をどう設計すべきかという具体的な答えを提示するものではありません。むしろ、議論が過熱しやすいテーマだからこそ、どのような前提や姿勢で議論に臨むのかを問い直しています。移民を一括りにして語らないこと、例外的な事件だけで全体像を判断しないこと、不安や怒りを感じる人々も含めて対話の場に戻すこと。こうした姿勢は、宗教的背景を持たない人にとっても、成熟した社会を維持するための基本条件と言えるでしょう。

4. 排他主義が強まる時代と宗教の距離感

移民問題をめぐって排他的な言説が勢いを増すとき、宗教が果たしうる役割は必ずしも教義を前面に出すことではありません。感情が先行しやすい議論に対し、「人間としてどう向き合うのか」という視点を繰り返し提示すること、社会が行き過ぎた方向へ進む際のブレーキとして機能することにあります。もちろん宗教が常に良い役割を果たすとは限りませんが、今回のクリスマスのメッセージは、排除の論理とは異なる言語を社会に提供しているように見えます。

5. 日本社会に引き寄せて考える

日本でも、外国人住民の増加とともに、制度負担やマナー、治安への不安が語られやすくなり、SNSでは強い言葉が拡散しがちです。私自身は無宗教ですが、それでも、今回紹介したような宗教指導者の発言が示す「共通の人間性」や「議論の姿勢」には学ぶ点があると感じます。宗教が政治的主張を押し出すのではなく、社会が立ち止まって考えるための視点を提供する存在であり得ることは、日本社会にとっても無関係ではありません。

6. 現実的な議論を続けるために

移民政策は、受け入れ人数、在留管理、労働市場、教育、地域社会の負担など、多層的で難しい課題を含みます。だからこそ、議論の入口で相手を「危険な存在」と固定してしまえば、現実的な解決策は遠のきます。クリスマスに語られたこれらのメッセージが共通して示していたのは、完璧な条件を待つのではなく、不完全な現実の中で、他者の声に耳を傾ける余地を確保することでした。その姿勢自体が、分断の時代に社会の耐久力を高める一つのヒントなのではないでしょうか。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。