[ブログ]「獲得競争に勝つ」より、「真摯に向き合う」ことが日本の強さになる

2025-12-18

人手不足が深刻な現場ほど、「海外との人材獲得競争に勝てるか」という言い方が前面に出がちです。けれども、勝ち負けのフレームで語り続ける限り、外国人は“必要なときだけ呼ばれる労働力”として扱われ、信頼は育ちにくい。むしろ日本の良さは、目の前の一人ひとりに真摯に向き合い、技術だけでなく生活面まで含めて丁寧に支えるところにあります。そこを磨き上げることが、結果として「本当に来てほしい人材が来てくれ、居続けてほしい人材が居続けてくれる」状態につながり、日本と外国人双方にとって明るい未来を開くと私は考えます。

参考記事(下線つきリンク)

介護現場で働く外国人は9万人、海外との獲得競争は激しくなるばかり…日本の強みは「技術指導や生活指導」

数字の先にいる「生活者」を見る

参考記事は、介護現場で働く外国人が増え、受け入れが本格化した時期や、現在の規模感、そして今後の獲得競争の厳しさを伝えています。大事なのは、その数字の先に「暮らしを営む生活者」がいるという視点です。言語、住居、交通、医療、家族、宗教、文化、職場の慣行――こうした要素が絡み合い、本人の定着や成長、そして現場の安定が左右されます。制度や採用手段を整えるだけでは足りず、日々の関わり方が問われます。

日本の強みは「丁寧さ」を実装できること

日本が他国と同じ土俵で、賃金や待遇の上積みだけで競い続けるのは簡単ではありません。一方で、日本の現場には、技能の伝え方、手順の標準化、品質へのこだわり、報連相、チームで支える文化など、育成・定着に向いた資産が数多くあります。参考記事が指摘する「技術指導や生活指導」という言葉は、まさに“人を人として迎え、働き続けられるように整える”発想です。これを単なる美談で終わらせず、仕組みとして実装することが鍵になります。

「獲得」より「信頼」──定着する職場が結局いちばん強い

外国人雇用で真に重要なのは、採用の入口よりも、入社後の体験です。入社直後に「相談できる」「学べる」「守られる」「評価される」と感じられるか。ここで信頼が形成されると、定着率が上がるだけでなく、紹介や口コミを通じて採用コストも下がり、現場に学びの循環が生まれます。反対に、短期離職が続けば、現場は疲弊し、採用は“穴埋めの繰り返し”になります。結局、勝つべき競争があるとすれば、それは獲得競争ではなく「信頼競争」です。

真摯に向き合うとは何か:5つの具体策

1. ことばの壁を「根性」で越えさせない

やさしい日本語、図解、動画、母語の補助、ロールプレイ――理解できる形に変換するのは雇用側の責任です。安全・品質・接遇が重要な現場ほど、曖昧な理解は事故やトラブルにつながります。「伝えた」ではなく「伝わった」を基準に、教育の設計を見直すべきです。

2. 生活導線を整える(住居・交通・行政手続)

定着の最大の敵は、職場外の不安です。住まいの契約、保証、公共料金、通勤、口座、スマホ、病院、子育て――最初の1〜3か月に詰まるポイントを“チェックリスト化”し、窓口(担当者)を明確にして、早期に不安を解消する。これはコストではなく投資です。

3. 評価とキャリアの見通しを示す

外国人本人が将来像を描けない職場には、長く居続けにくい。昇給・昇格の条件、資格取得支援、役割のステップ、試験への伴走など、「何を頑張ればどうなるか」を可視化しましょう。見通しは、努力の燃料になります。

4. 相談の“入口”を複線化する

相談は1本化すると詰まります。直属の上司、先輩、生活支援担当、外部相談先(登録支援機関や専門家)など、複数のルートを用意し、安心して声を上げられる環境を作る。小さな違和感のうちに拾うほど、大きなトラブルは減ります。

5. 「歓迎」を儀式ではなく日常にする

歓迎会の一度きりで終わらせず、日々の声かけ、感謝、称賛、説明責任を積み重ねる。文化の違いは埋められますが、軽視された経験は消えません。逆に、尊重された経験は強く残ります。

排外主義の誘惑に陥らないことが、最大のリスク管理

社会が不安定になるほど、「外から来た人」に責任を押し付ける誘惑が強まります。しかし排外主義は、現場にとっても国家にとっても、長期的には損失です。なぜなら、差別や敵意の気配は、当事者にとって“最速で伝わる情報”だからです。働き手の選択肢が広がる時代に、「安心して暮らせない国」に人は定着しません。そして、いったん失った評判を取り戻すには、膨大な時間がかかります。排外主義を避けることは理念ではなく、採用・定着・国益の観点からの現実的な戦略でもあります。

「来てほしい人材」に来てもらうために必要な視点

日本が本当に必要としているのは、単に人数ではなく、地域や現場を支え、学び、チームの一員として力を発揮し、できれば家族も含めて地域に根を張ってくれる人材です。そうした人ほど、国や会社を選ぶ基準はシビアです。待遇はもちろん、尊重、成長機会、透明性、生活の安心、安全、周囲の空気感――総合点で見ています。だからこそ、目先の「獲得競争に勝つ」より、「外国人に真摯に向き合う職場・地域」を増やすことが、最短で最大の成果につながります。

結び:日本の良さを磨けば、未来は明るくなる

外国人雇用は、制度の問題であると同時に、日々の関係性の問題です。丁寧に教える。生活を支える。困ったときに守る。努力を正当に評価する。違いを前提に対話する。こうした積み重ねは、地味ですが、確実に信頼を生みます。信頼は定着を生み、定着は現場の安定と品質を生み、安定は地域の未来を支えます。そしてその輪が広がるほど、排外主義の誘惑に陥りにくい社会になります。「日本の良さ」を追求することは、外国人のためだけでなく、日本自身の未来のためでもあります。



Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。