[ブログ]出生率の低下と移民――ガーディアン論考が日本に示す「設計図」の重要性

2025-12-16

2025年12月12日付の英ガーディアンの論考は、欧州で進む出生率低下と高齢化を前提に、「移民受入れを現実的な政策手段として扱わなければ、社会の維持そのものが難しくなる」という問題提起を行っています。記事はこちらです:。論調は刺激的ですが、人口構造という「計算が可能な現実」から逃げない姿勢は、人口減少がより深く進む日本にとっても示唆的です。感情やイメージで賛否を叫ぶ段階から、「制度としてどう設計し、どう運用し、どう地域と現場を支えるか」という議論へ移す必要がある――これが最も重要なメッセージだと受け取れます。

1. 出生率対策は不可欠だが、時間軸が違う

日本でも、出生率を上げる政策は最重要課題です。しかし、出生率が仮に改善しても、その子どもたちが労働市場の担い手となり、税と社会保障を支える厚みを持つまでには、どうしても長い時間がかかります。一方で高齢化と担い手不足は「毎年」進み、介護・医療・地域交通・建設保全・物流・農業など、現場の人手は「今」足りません。ここに政策の難しさがあります。出生率対策は長期の基礎工事であり、同時に、当面の不足を埋める短中期の手当てが必要です。移民・外国人材の受入れは、その短中期の手段として、感情論ではなく制度論で扱うべきテーマだということです。

2. 「人数」より先に「受入れ能力」を点検する

移民政策が社会の分断を生みやすいのは、「人数」だけが独り歩きし、生活実感に直結する部分の整備が追いつかないときです。日本でも同じです。受入れ数の議論より前に、社会の受入れ能力(キャパシティ)を点検し、ボトルネックに先行投資することが肝心です。例えば、住居(家賃上昇・空室活用・社宅/寮整備)、教育(就学支援・日本語支援・教員体制)、医療(通訳・未収金対策・相談導線)、行政(多言語窓口・DX・相談体制)、職場(安全教育・労務管理・ハラスメント対策)、地域(防災・ごみ出し・自治会・学校行事)など、摩擦が出やすいポイントはかなり具体的に予測できます。ここを整備しないまま「受け入れる/受け入れない」を争えば、結局、現場にしわ寄せが集中し、反発が増幅されます。

3. 「共生」は精神論ではなく、契約・ルール・支援の三点セット

共生という言葉は美しい反面、具体策が薄いと「きれいごと」に聞こえてしまいます。現場が求めているのは精神論ではなく、運用可能な仕組みです。その中核は、(1)契約の透明化、(2)ルールの明確化、(3)支援の制度化、の三点セットです。(1)契約の透明化では、賃金・労働時間・住居費・控除・返済・違約金の有無などを、母語を含めて理解できる形で提示することが重要です。(2)ルールの明確化では、在留管理や就労範囲、社会保険・税・年金、転職や退職時の手続、トラブル時の相談窓口などを「誰が」「いつ」「何を」するかまで落とし込みます。(3)支援の制度化では、日本語学習、生活オリエンテーション、相談体制、メンタルケア、家族帯同時の学校・保育支援など、定着率と生産性を左右する支援を仕組みにします。これらが整うほど、雇用主側の不確実性が減り、地域の不安も抑えられ、結果として社会的な納得感が高まります。

4. 日本で起きがちな「誤解」を先回りして解く

議論が荒れやすい背景には、いくつかの典型的な誤解があります。第一に、「移民を受け入れる=無制限に受け入れる」という誤解です。実際には、資格要件、分野、期間、家族帯同、定着支援、違反時の対応など、設計次第で運用は大きく変わります。第二に、「移民=治安悪化」という短絡です。治安は入国の有無だけで決まらず、労働市場の健全性、搾取の有無、住居・教育・地域支援の整備、取り締まりの適正さなど複合要因です。第三に、「日本人の賃金が下がる」という懸念です。これは、受入れ制度が低賃金の温床になる設計(過度な拘束、転職制限、費用転嫁、違約金など)だと起こり得ます。だからこそ、賃金・労務のルール整備、適正な監督、技能向上とキャリアパスの整備が必要になります。結論として、移民政策は「善悪」ではなく「粗い設計がリスクを生む」という制度設計の問題なのです。

5. 50年先の国家像から逆算する――移民政策を“人口戦略”に位置づける

ガーディアン論考の強みは、出生率・高齢化という「動かしにくい前提」から、議論の逃げ道を塞ぐ点にあります。日本も同じく、人口減少はすでに進行しており、今後も急には止まりません。だからこそ必要なのは、目先の人気取りではなく、50年先の国家像・地域像から逆算した人口戦略です。どの産業を維持し、どの地域の公共サービスを守り、どのインフラを更新し、どの分野に投資するのか。その設計図があって初めて、必要な人材の規模、教育・日本語支援の枠、永住や家族帯同の考え方、自治体の役割、企業の責任、そして負担の配分が定まります。移民政策は単体で浮かせるほど摩擦が増えます。出生率対策、労働市場改革、社会保障改革、地域政策、教育政策と一体で語り、「どういう社会を維持したいのか」を先に示す。そうして初めて、有権者が納得できる持続可能な議論になります。

まとめ:必要なのは“現場が回る”設計と、国としての長期ビジョン

この論考が日本に示す最大の示唆は、「人口構造の問題は、感情より先に現実として到来する」ということです。出生率対策を強化しながら、当面の担い手不足をどう補い、同時に社会の受入れ能力をどう高めるか。議論を「賛成/反対」から「制度の設計と運用」へ移し、契約・ルール・支援を整え、地域と企業の役割分担を明確にする。そして何より、50年先の国家像を提示し、その上で移民政策を人口戦略の一部として位置づける。強い言葉に賛同するかどうかは別として、人口減少国に必要なのは、現場が回り、納得感が積み上がる設計です。日本はすでに、その設計を急ぐ段階に入っています。


Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。