[ブログ]在留関連手数料の大幅引き上げは何をもたらすか――海外事例から考える日本のこれから

2025-12-04

2025年11月27日付の時事通信の記事は、日本で在留関連手数料を大幅に引き上げる方針が示されたことを報じています。更新や在留資格変更、永住許可など、外国人が日本に「合法的にとどまる」ために不可欠な手続きのコストが、一気に数万円から十万円超まで跳ね上がる可能性があるという内容です。少子高齢化の中で外国人材への依存度が高まる一方、その入口と滞在維持のコストを大きく上げることが果たして合理的なのか――この記事は、そんな問題提起でもあります。本稿では、このニュースを踏まえつつ、海外での類似の動きがどのような問題を引き起こしてきたのかを整理し、日本がどのような点に注意すべきかを考えていきます。

ニュースが示す「在留コスト」転換点という問題意識

在留関連手数料の引き上げ自体は、「審査コストの増大」「デジタル化投資」「人件費高騰」などを理由として、一定の説得力を持ちます。入管行政が予算制約の中で行われていることを考えれば、受益者負担という発想が出てくるのも自然です。しかし、今回の報道で示されたような「大幅な」引き上げとなると、単に財源確保の話にとどまらず、外国人本人や雇用主にとっては「在留継続をあきらめるかどうか」を左右しかねないレベルの政策介入になります。とりわけ、更新や在留資格変更は、長期的に日本で生活し、働き続けるためのライフラインです。これが高額化すればするほど、経済的に脆弱な外国人ほど制度から押し出されていく危険が高まります。

海外で起きた「高額手数料」の弊害

海外ではすでに、在留関連手数料の高騰が深刻な副作用を生んできた例がいくつも報告されています。例えばアメリカでは、USCISの各種ビザ・永住権申請手数料がこの数年で大幅に引き上げられ、就労ビザや家族ベースの申請費用が何度も積み重なることで、低所得層の移民が「合法ルートを維持できない」状況に追い込まれるケースが指摘されています。手数料は審査コストの回収という名目ですが、結果として「お金のある移民だけが合法ステータスを維持できる」構造につながりかねません。英国でも、Home Officeのビザや永住許可申請料が長年にわたり引き上げられ、一部の申請では原価を大きく上回る水準で徴収されていると批判されてきました。不許可になっても原則として返金されないため、家族呼び寄せや長期定住を目指す移民にとっては、申請のたびに数十万円単位のリスクを負うことになり、「申請自体を断念する」「家族が離れ離れのまま」という事態も生んでいます。

手数料高騰がもたらす三つのリスク

こうした海外事例から見えてくるリスクは少なくとも三つあります。第一に、合法在留からの「制度離脱リスク」の増大です。手数料が高額になるほど、更新や在留資格変更を見送り、結果としてオーバーステイや非正規就労に流れ込む人が増えるおそれがあります。行政から見れば「収入増」のはずが、実態としては「不法滞在問題の拡大」として返ってくる可能性があります。第二に、社会統合と家族生活へのダメージです。更新や永住許可が高額になればなるほど、長期的に日本で生活基盤を築こうとする人ほど負担が重くなります。家族帯同や永住申請を繰り返し先送りする結果、地域社会への定着や子どもの教育、キャリア形成が不安定になり、「いつまでいてよいか分からない生活」が続くことになります。第三に、企業・自治体の人材確保にとっても逆風になり得ることです。せっかく採用し育成した外国人材に対し、更新のたびに数万円から十万円超のコストがかかるとなれば、雇用主側の負担も増えます。その結果、「外国人雇用はコストが重すぎる」という印象が広がり、慢性的な人手不足にもかかわらず受け入れが進まないという本末転倒が生じかねません。

「受け入れ拡大」と「費用負担増」のミスマッチ

日本政府は一方で、特定技能や高度人材などを通じて外国人材の受け入れを拡大しようとしています。その一方で、在留関連手数料を一気に引き上げれば、「来てほしい」と言いながら「居続けるコストは自己責任」という矛盾したメッセージを発することになります。とくに、賃金水準がそれほど高くない業種の外国人労働者や、その家族にとっては、数万円単位の追加コストは決して小さくありません。地方の中小企業や介護・運輸・建設など、慢性的に人手が不足している分野ほど、こうしたコスト増の影響を強く受けるでしょう。海外事例を見ると、高額手数料は「移民抑制策」としても必ずしも機能しておらず、むしろ非正規化や搾取の温床を広げたと批判されているケースが少なくありません。

日本が今から考えておくべき配慮と仕組み

では、日本はどうすればよいのでしょうか。第一に、手数料水準を決める際には、「財源確保」だけでなく「合法在留の維持可能性」という観点を必ず組み込むことが重要です。特に、更新や在留資格変更のように、すでに日本で生活・就労している人の手続きについては、低所得層や家族帯同世帯への減免・分割払い・多子世帯への優遇など、きめ細かい配慮が検討されるべきです。第二に、手数料引き上げと同時に、行政手続きの簡素化・オンライン化を徹底し、「高くなったのにサービスは変わらない」という利用者の不信感を避ける必要があります。審査期間の短縮や情報提供の充実とセットで実施してこそ、納得感のある制度改正になります。第三に、地方自治体や中小企業が、外国人材の在留維持に関するコストや手続きを相談できる仕組みを整えることも重要です。単に手数料を上げて終わりではなく、「どうすれば地域として外国人と共生し、人手不足解消にもつなげられるか」を一体的に設計する視点が求められます。

まとめ――「払えない人を排除する」方向にしないために

在留関連手数料の大幅引き上げは、一見すると財政的・技術的な制度改正のように見えますが、実際には「誰が日本で暮らし続けることができるのか」という根本的な問いに直結しています。海外の例が示すように、高額手数料はしばしば、合法在留者を不法化させ、家族の分断や社会統合の失敗を招いてきました。日本が同じ道をたどらないためには、「払える人だけを残す」選別の道具にせず、むしろ適切な減免措置や手続きの合理化を通じて、「まじめに働き、生活している人がきちんと在留資格を維持できる」制度設計を行うことが不可欠です。今回の時事通信の記事が投げかける問題は、単なる手数料の話ではなく、日本社会がこれからどのようなかたちで外国人と共に歩んでいくのかという、長期的なビジョンを問うものだと言えるでしょう。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。