[ブログ]日本型移民モデルと、雇用主が誇りをもって共生を進める理由

2025-11-28

近年、日本の移民政策や外国人労働者の受け入れについて、海外からも注目が集まっています。例えば、国際誌Foreign Affairsには、“Japan’s Stalled Immigration Experiment”という記事が掲載され、日本が本格的な「移民国家」としての道をためらいながらも、労働力不足を背景に外国人受け入れを拡大してきた経緯や、その限界が論じられています。この記事をきっかけに、「日本型移民モデル」とは何なのか、そしてその中で企業や雇用主はどのような姿勢で共生を進めるべきなのか、改めて考えてみたいと思います。

「日本型移民モデル」とは何か

日本型移民モデルの特徴は、一言でいえば「移民国家とは名乗らないまま、実質的には外国人労働力に依存している」という点です。従来の技能実習制度や特定技能制度、高度人材ポイント制、留学生アルバイト、日系人枠など、在留資格の枠組みは多様ですが、その多くは「一時的な労働力」「補完的な人材」として設計されてきました。家族帯同や永住への道は限定的で、「長期的にここで暮らす前提の住民」というより、「期限付きで働く人」として扱われる傾向が強いと言えます。

一方で、現実の日本社会を見れば、外国にルーツを持つ子どもが学校に通い、日本語と母語を行き来しながら成長し、住宅ローンを組んで家を買い、日本企業でキャリアを積んでいる人も少しずつ増えています。統計上はまだ人口の数%に過ぎないかもしれませんが、すでに「一時的な労働力」という枠を超えて、日本社会の一部として定着し始めている人たちが確実に存在します。制度設計が「一時的滞在」を前提としているのに、現実は「定住・家族生活」に向かっている――このギャップこそが、日本型移民モデルのひずみであり、今まさに問われているポイントです。

厳格な管理か、誇りある共生か

日本型移民モデルは、治安や社会不安への懸念から、「管理」と「選別」の発想が強くなりがちです。受け入れ人数に上限を設ける、分野や地域を限定する、在留資格を細かく分けて監視する――こうした仕組み自体は、国家としての裁量の範囲内にあります。しかし、現場の職場レベルまで「管理」「負担」「リスク」といったマイナスの言葉だけで語られるようになると、企業も従業員も、外国人との共生を「やむを得ない我慢」として受け止めてしまいます。

本来、雇用主や企業が担っているのは、単に「外国人を雇うか雇わないか」という選択だけではありません。会社の文化や就業規則、育成の仕組み、キャリアパスを通じて、「この国で働くとはどういうことか」「日本社会で暮らすとはどういうことか」を具体的な形にして見せる役割も担っています。日本型移民モデルが制度として揺れ動いている今だからこそ、現場の雇用主が「共生の実務モデル」をつくる主役になれるタイミングでもあるのです。

日本型モデルの強み:慎重さと段階的な受け入れ

日本のやり方には、否定すべき点ばかりではありません。急激に大量の移民を受け入れて社会が分断される事態を避け、地域社会や企業が対応できるスピードを見ながら段階的に受け入れを広げてきたことは、一つの選択肢です。治安や労働基準、教育・福祉などの基盤を守りながら、どこまで受け入れを広げるか。これはどの国でも難しいバランスですが、日本は比較的慎重な側に立っていると言えます。

また、外国人を「安価な労働力」としてだけでなく、技能や言語、文化的背景を持つ人材として評価しようとする動きも、少しずつ広がっています。例えば、製造業や介護、宿泊業で、外国人スタッフがチームの中心となり、現地の言語や文化を生かして海外展開や多言語サービスに貢献している例も増えています。こうした現場の実践は、日本型移民モデルが「単純労働力モデル」から「共創人材モデル」に進化し得ることを示しています。

日本型モデルの弱点:長期ビジョンの不在

一方で、日本型移民モデルには大きな弱点もあります。それは、「この国で20年、30年暮らす外国人と、その子どもたちをどう位置づけるのか」という長期ビジョンが、政治や制度のレベルで十分に描かれていないことです。外国人本人がどれだけ職場で評価され、地域で信頼を築いても、在留資格が不安定であれば、人生設計は立てづらくなります。家族の呼び寄せや子どもの進学・就職、日本語教育や母語維持の支援も、「制度として当たり前」にするには、まだ道半ばです。

このビジョンの空白を埋めるうえで、現場の雇用主の役割は決して小さくありません。企業が自ら「長期的にこの人材と歩む」という姿勢を示すことで、行政や社会全体に対しても「日本型移民モデルは、単なる一時労働ではなく、共に社会を支える仕組みに変わるべきだ」というメッセージを発信できます。

雇用主が「誇り」を持って共生を進めるために

では、雇用主は具体的にどのように共生を進め、「誇りを持てる日本型移民モデル」に関わることができるのでしょうか。第一に、「コンプライアンスの徹底」を単なる義務ではなく、企業価値の一部として位置づけることです。在留資格に合わない業務をさせない、長時間労働や未払い残業を放置しない、社会保険や税の手続きを適切に行う――こうした基本を守ること自体が、「外国人を人として尊重する企業」であるという強いメッセージになります。

第二に、「日本人と同じ土俵で評価し、育成する」ことです。評価制度や昇進の基準を明確にし、日本人社員と同様に研修やキャリア面談の機会を提供することで、「外国人だからいつか帰る人」という前提を崩し、「仲間として投資する対象」へと視点を変えることができます。

第三に、「多文化であることをブランドにする」ことです。多言語対応や海外顧客へのサービスだけでなく、社内コミュニケーションやイベントで外国の文化を紹介することは、日本人社員にとっても学びの機会になります。「外国人がいるから大変」ではなく、「外国人と一緒だからこそ、新しい発想が生まれる」職場であると対外的に発信できれば、採用力や顧客からの信頼にもつながります。

日本型移民モデルを「誇れるモデル」に変えていく

日本型移民モデルは、まだ完成された制度ではなく、試行錯誤の「途中経過」にあります。海外メディアからは「中途半端な移民政策」「実験が行き詰まっている」と評価されることもありますが、その評価を単に嘆くのではなく、「では現場から何を変えられるか」と問い直すことが重要です。

雇用主や企業は、法律や制度に従うだけの「受け身のプレーヤー」ではありません。むしろ、外国人と日本人が日々肩を並べて働き、学び合い、成長している現場こそが、日本の移民モデルの「実態」であり、「未来像」です。ここで誠実な実践を積み重ねることが、日本型移民モデルを「安く使い捨てる仕組み」から、「多様な人材が安心して力を発揮できる、誇れる共生モデル」へと変えていく力になります。

人口減少と労働力不足が進む日本にとって、外国人とどう共に生きるかは避けて通れない課題です。だからこそ、雇用主一人ひとりが、「うちは外国人社員とともに成長している」「共生を誇りとする企業だ」と胸を張って言えるような現場をつくること。それこそが、日本型移民モデルを前向きなものへとアップデートしていく、最前線の仕事なのだと思います。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。