[ブログ]特定技能外国人が妊娠したとき、雇用主がとるべき対応とは
2025-11-26
鹿児島県内で暮らす技能実習生・特定技能外国人の妊娠・出産をテーマにしたセミナーの様子を伝える「働いている中で予期せず赤ちゃんができたら…日本で働く外国人の妊娠、孤立出産防ぐ手だてを 鹿児島市では殺害事件に至るケースも」(南日本新聞373news)の記事では、若い世代の女性外国人が増える一方で、妊娠をきっかけに孤立し、誰にも相談できないまま出産に至ってしまう危険性が指摘されています。送り出し機関や監理団体から「妊娠したら退職・帰国」とプレッシャーを受ける事例も紹介されており、これは特定技能外国人を雇用する企業にとっても決して他人事ではありません。
妊娠を理由とした解雇・帰国強要は法律で禁止されています
まず大前提として押さえておきたいのは、「特定技能だから」「外国人だから」といって妊娠を理由に解雇したり、契約終了や帰国を強要したりすることは、日本の法律上認められていないという点です。男女雇用機会均等法では、妊娠・出産・産前産後休業の取得等を理由とする解雇や不利益取扱いを禁止しており、労働基準法・育児介護休業法もあわせて、妊娠した労働者を保護する仕組みが整えられています。これらは国籍を問わず「日本で働く労働者」であれば等しく適用されるルールであり、特定技能外国人も当然に保護の対象となります。「妊娠したなら契約を打ち切る」「在留資格があるうちに帰国させる」といった対応は、法令違反リスクが高く、企業として決して選択してはならない対応です。
雇用主がまず行うべき「安心して話せる場づくり」
現場で最も問題になるのは、「妊娠がわかっても会社に言えない」という状況です。技能実習・特定技能の分野では、母国から「妊娠はNG」「妊娠したらビザが切れる」と誤った説明を受けているケースも少なくありません。雇用主としては、就業規則やオリエンテーションの中で、「妊娠・出産は権利であり、相談したことを理由に解雇・強制帰国させることはない」ことを、やさしい日本語や母語(ベトナム語・インドネシア語・英語など)を用いて繰り返し伝えることが重要です。また、「女性の相談窓口」「同じ母国語で話せる担当者」「登録支援機関や外部相談窓口(国際交流協会・支援団体など)」を具体的に案内し、早い段階で相談してもらえる環境を整えることが、孤立出産防止の第一歩となります。
妊娠が判明したら確認すべきポイント
特定技能外国人から妊娠の申告を受けた場合、雇用主としては次の点を丁寧に確認しながら対応方針を一緒に考えていくことが求められます。第一に、本人の意向を尊重することです。仕事を続けたいのか、一時的に休みたいのか、日本で出産するのか・母国に戻る選択肢も含めてどう考えているのかを、通訳なども活用して丁寧に聞き取ります。第二に、現在の業務内容が妊娠中でも安全に続けられるかを産業医や医療機関と連携して確認し、必要に応じて配置転換や作業内容の軽減を検討します。第三に、産前産後休業・育児休業・有給休暇の取り扱い、勤務シフトの調整、健診のための中抜け対応など、社内ルールに基づく支援策を整理し、本人に分かりやすく説明します。
在留資格「特定技能」と雇用契約の取り扱い
特定技能の在留資格は、基本的に「就労契約があること」を前提としているため、長期の休業や出産を理由に在留資格がどうなるのか、不安を抱く外国人労働者は少なくありません。ここで重要なのは、「妊娠・出産そのものは在留不許可事由ではない」という点です。雇用主が適切に雇用関係を維持し、社会保険や休業制度を活用しながら就労継続の意向を示せば、直ちに在留資格が取り消されることは通常ありません。一方で、契約期間満了や事業上の都合による雇止めを行う場合には、妊娠中・産後の労働者であることを理由に更新しないといった扱いが「違法な不利益取扱い」と評価されるリスクもあります。雇用契約の更新可否を検討する際は、妊娠とは無関係な客観的事情(業績悪化・部署廃止など)が説明できるかどうか、慎重に確認する必要があります。
登録支援機関と連携した生活・医療面の支援
特定技能所属機関には、生活上の相談対応や行政手続きの案内などの支援義務が課されています。妊娠が判明した場合には、登録支援機関とも連携しながら、母子保健サービスや医療機関へのつなぎ、母子健康手帳の取得、市区町村の外国人向け相談窓口の案内などを行うことが重要です。特に、言葉の壁や経済的不安から健診や相談を先送りにしてしまうと、記事で紹介されているような孤立出産・事件につながりかねません。勤務シフトの調整だけでなく、「どの病院に行けばよいか」「出産費用や公的助成はどうなっているか」「配偶者やパートナーの在留・扶養の扱いはどうか」といった不安を一緒に整理し、必要に応じて社会保険労務士や行政書士、支援団体ともネットワークを組むことが望まれます。
社内ルール・体制整備のポイント
特定技能外国人の妊娠に限らず、外国人を雇用する企業全体の「母性保護」「育児支援」の仕組みを見直すことも大切です。具体的には、就業規則に妊娠・出産・育児休業に関する条文を明確に記載し、日本人社員と同等の取り扱いであることを示すこと、これらのルールをやさしい日本語や多言語のハンドブックに落とし込み、入社時オリエンテーションや定期面談で繰り返し説明することが挙げられます。また、現場の管理職が「妊娠=迷惑」と受け止めず、法令と会社方針を理解したうえで柔軟にシフト調整や業務配分を行えるよう、管理職研修を実施することも有効です。さらに、非常時の緊急連絡体制や、夜間・休日に相談できる外部窓口の情報を、寮や休憩室に掲示しておくことも、孤立を防ぐための小さな工夫になります。
まとめ:経済的な「生産性」だけでなく、安心して暮らせる環境を
373newsの記事が伝えるように、外国人労働者を「人手不足を埋める存在」としてだけ見るのではなく、生活者・親としての側面も含めて支えていく視点が求められています。特定技能外国人が妊娠したとき、雇用主に求められるのは、単に法令違反を避けることにとどまりません。安心して妊娠・出産・子育てについて相談できる環境を整え、必要な情報と支援につなぎ、可能な限りキャリアの継続を支えることこそが、長期的にみて企業の信頼と人材確保につながります。「妊娠したら困る存在」として扱うのか、「妊娠しても安心して働き続けられる職場」として選ばれるのか。その分かれ目は、まさに今、現場の一つ一つの対応にかかっています。特定技能外国人を受け入れている企業こそ、今回の報道をきっかけに、自社のルールや支援体制を見直してみてはいかがでしょうか。
