[ブログ]特定技能外国人に「別の仕事」をさせてはいけない理由――ナンセイスチール事件から考える
2025-11-22
神奈川新聞のこちらの記事によれば、千葉県の鉄鋼資材販売会社ナンセイスチールの社長が、中国籍の特定技能1号(建設分野)の社員に在留資格で認められていない業務をさせた疑いで、不法就労助長の容疑により逮捕されました。報道によると、この社員は建設分野の特定技能として在留していたにもかかわらず、相模原工場で工場長として金属くずの買い取り業務などに従事していたとされています。会社側は法人としても書類送検される見込みで、盗品電線の買い取りなど別件の疑いも含めて捜査が続いているとのことです。
事件のポイント――「在留資格で認められた仕事」から外れていた
今回問題となっているのは、単に「不法滞在」のようなケースではなく、「在留資格はあるが、その資格で認められていない仕事をさせていた」という点です。特定技能1号(建設分野)の在留資格であれば、本来は建設分野の特定産業分野・業務区分に該当する現場作業などにフルタイムで従事することが前提です。ところが報道では、この中国籍社員は工場長として金属くずの買い取りや工場運営に関する業務を行っていたとされており、建設分野の特定技能として想定されている業務内容から明らかに外れていた可能性があります。このように、在留資格と実際の業務内容がずれると、「資格外活動」と判断され、不法就労・不法就労助長という重い問題に発展します。
特定技能外国人は「フルタイム前提」の在留資格
そもそも、特定技能1号は人手不足分野でフルタイムの労働力を確保するために創設された在留資格です。留学や家族滞在のように「本来の在留目的(勉強・家族との生活)+アルバイト」という構造ではなく、「就労そのもの」が在留の目的になっています。そのため、入管実務では特定技能外国人について「資格外活動」を認めない運用がとられています。分かりやすく言えば、特定技能は「この分野・この業務でフルタイムで働くこと」を前提に在留を許可しているので、「余った時間で別の業務も」「工場長として管理業務も兼ねて」などといった“おまけの仕事”は原則として想定されていない、ということです。特に今回のように、建設分野で在留している人を、金属くず買い取りや工場運営といった別分野の業務に主たる仕事として従事させていれば、「フルタイムで資格外の業務をさせていた」と見なされても仕方がありません。
なぜ資格外活動がここまで厳しく問題視されるのか
資格外活動が問題視される理由は大きく二つあります。第一に、「在留資格の信頼性」が損なわれることです。入管庁は、特定技能の分野ごとに人手不足の実態や必要な技能水準を確認した上で、「この分野でこの仕事をする外国人を受け入れてよい」という前提で制度を組み立てています。にもかかわらず、実際にはまったく別の分野・業務に従事させてしまうと、「制度を使って人だけ連れてきて、実際は違う仕事をさせている」という状態になり、制度全体への信頼が崩れます。第二に、「不法就労の温床になりやすい」ことです。特定技能で雇った人を別のラインに回したり、盗品の買い取りに関わらせたりといった運用が広がれば、「特定技能=安く使える何でも屋」と誤解されかねません。その結果、まじめにルールを守って受け入れている企業まで疑いの目で見られ、外国人本人も在留資格取り消しや退去強制のリスクにさらされます。
企業が必ず押さえておくべきポイント
特定技能外国人を受け入れている企業としては、次のような点を改めて確認しておく必要があります。第一に、「業務内容を採用時の説明より広げない」ことです。募集・採用の段階で「建設現場での型枠施工」「ビル清掃」「介護施設での身体介護」など具体的に説明した業務から大きく外れた仕事をさせるのは危険です。「最初は現場作業だったが、いつの間にか工場長・営業・通訳など別の役割がメインになっていた」というのは、典型的にトラブルになりやすいパターンです。第二に、「肩書きだけ管理職にして中身は何でもやらせる」という運用を避けることです。肩書きが工場長や班長であっても、在留資格上はあくまで特定技能1号です。人員配置や現場のリーダー的役割を担わせること自体はあり得ますが、そのことで「本来の特定技能の業務がおろそかになっている」「実態として別分野の仕事をメインにしている」と評価されれば、資格外活動と判断されるリスクがあります。第三に、「日本人と同じ感覚で“兼務”をさせない」ことです。日本人社員であれば「現場+仕入れ」「製造+営業」などの兼務はよくある話ですが、在留資格で働く外国人に同じ感覚で兼務をさせると、知らないうちに資格外活動に踏み込んでしまうことがあります。外国人に新しい役割を担ってもらう場合は、「その業務は在留資格の範囲内か」を必ず専門家に確認することが重要です。
特定技能外国人本人が気を付けるべきこと
特定技能で働く外国人本人も、「会社が言うから大丈夫だろう」と思い込まず、自分の在留資格の範囲を理解しておく必要があります。例えば、雇用契約書・雇用条件書・特定技能雇用契約書・特定技能協議書などに記載されている業務内容と、実際に日々行っている仕事が大きく違ってきた場合、そのまま放置すると自分の在留資格が危険にさらされるかもしれません。特に、・別分野の工場や支店への長期配置・金属くずの買い取り、転売、リサイクルなど別事業への常態的な従事・建設分野のはずが、ほとんど事務・営業・通訳だけになっているといった状況が続く場合は、早めに登録支援機関や専門家に相談した方が安全です。「会社のため」と思って何でも引き受けた結果、入管法違反に問われるのは本人である、という厳しい現実を忘れてはなりません。
まとめ――特定技能は「何でもできる」資格ではない
ナンセイスチールの事件は、「在留資格があるから安心」と考えていた企業にとって大きな警鐘となるケースだと言えます。特定技能外国人は、あくまでも人手不足分野でフルタイムで働くことを前提に受け入れられているのであって、「足りないポジションを埋めるために何でもやってもらう」ための便利な労働力ではありません。企業側が在留資格の仕組みを正しく理解せず、建設分野の特定技能外国人を工場長として金属くずの買い取りに従事させるような運用をすれば、不法就労助長の責任を問われ、法人としても書類送検されるリスクがあります。そして、そのしわ寄せは、まじめに働いている外国人本人にも及びます。特定技能制度を長く持続可能な仕組みにしていくためには、「特定技能外国人はフルタイムで認められた業務に従事することが求められており、資格外活動は基本的に認められない」という大原則を、受け入れ企業も本人も改めて心に刻む必要があります。制度の趣旨を理解し、書類上の業務内容と現実の仕事がずれていないかを常にチェックすることが、不法就労や入管トラブルを避ける最も確実な予防策です。
