[ブログ]「知らなかった」では済まされない。不法就労助長罪のリスクを経営者はどう防ぐか
2025-11-16
先日報じられた、在留資格「技術・人文知識・国際業務(いわゆる技人国)」の外国人を野菜加工工場で働かせていたとして、経営者らが入管法違反(不法就労助長)容疑で逮捕された事案は、多くの企業にとって他人事ではありません。詳しくは毎日新聞の記事でも取り上げられていますが、ここではこのニュースを参考にしながら、「経営者が本当に知らなかったとしても不法就労助長罪に問われ得る」という点について、あらためて注意喚起したいと思います。
不法就労助長罪とは何か?経営者に突きつけられる重い責任
入管法上の「不法就労助長罪」とは、在留資格で認められていない仕事をさせる、あるいは不法残留者などを働かせる行為を処罰する規定です。単に「不法就労している外国人本人」だけでなく、「その就労をさせた者」「あっせんした者」も刑事責任を負う可能性があります。処罰対象は社長や役員、現場責任者、採用担当者など、会社の中で雇用や労務に影響力を持つ人たちです。中小企業で「人事も採用も経営者が兼務」というケースでは、経営者本人が最前線でリスクを負っているともいえます。
「知らなかった」ではなぜ免責されないのか
不法就労助長罪で問題になるのは、「本当に一切知らなかったか」だけではありません。「本来なら注意すれば気づけたのに、何も確認しなかった」「怪しいと思いながら見て見ぬふりをした」と評価されると、「少なくとも認識可能性はあった」と判断される余地が出てきます。今回の報道でも、経営者は「全く知らなかった」と供述している一方で、人事担当者は「悪いと分かって資格外の外国人を雇用した」と話しているとされています。仮にトップが本当に知らなくても、「在留カードや在留資格をきちんと確認する体制を作っていたのか」「業務内容と在留資格の整合性をチェックするルールを設けていたのか」といった点が問われます。つまり、経営者には「知らないままでいないようにする義務」があり、それを怠れば、結果として不法就労を助長したと評価され得るのです。
在留資格と実際の業務が合っているかが最大のチェックポイント
不法就労と言うと、「在留期限切れ」や「そもそもビザが無い人」を思い浮かべる方が多いですが、近年問題になっているのは、在留カード自体は一見「きれい」でも、その在留資格の範囲外の単純労働に従事させるケースです。例えば、「技術・人文知識・国際業務」は専門的・事務的なホワイトカラー職を前提とする在留資格であり、工場ラインでの単純な野菜加工作業は原則として対象外です。表向きはIT企業や商社勤務として在留資格を取得させ、実際にはまったく別の現場に送り込む、といったスキームは典型的な不法就労助長となり得ます。経営者としては、「在留カードをコピーして保管しているから安心」ではなく、「その外国人が持っている在留資格で、うちが任せている仕事は本当に許されるのか」を自らチェックする視点が不可欠です。
「外注だから大丈夫」は大きな落とし穴
自社が直接雇っていないから安全、という考え方も危険です。派遣会社・請負会社・紹介会社などを通じて外国人労働者が現場に入っている場合でも、実態として自社が指揮命令している、あるいは在留資格に明らかに合致しない業務に従事させているなどの事情があれば、発注側にも責任が及ぶ可能性があります。特に、報道で問題になったような食品工場や物流、清掃、建設などは、人手不足を背景に「とにかく人を入れてほしい」と業者に丸投げしがちな現場です。しかし、結果として不法就労が発覚したとき、「誰がどこまで知っていたのか」「どのような確認をしていたのか」が詳細に調べられます。「外注だから関係ない」では通らないという前提で、自社としての確認・監督義務を意識する必要があります。
経営者が今すぐ確認すべきチェックポイント
では、経営者として最低限どのような点を確認し、体制を整えるべきでしょうか。第一に、「在留カードの真正性」と「在留期限」の確認はもちろん、「在留資格の種類」と「実際の業務内容」が合致しているかを、採用時および配置変更時に必ずチェックする仕組みを作ることです。第二に、採用担当者や現場管理者任せにせず、外国人雇用に関する基本的なルールとリスクを経営会議等で共有し、「怪しい場合は必ず相談する」文化をつくること。第三に、派遣・請負など外部から人材を受け入れる場合は、契約書の中に「在留資格の適法性を確認する義務」「不法就労が発覚した場合の責任分担」などを明記し、必要に応じて在留カードの写しや業務内容の説明を取り寄せることが重要です。
「安い労働力」はリスクと表裏一体であることを忘れない
不法就労が絡む事案では、「最低賃金で働いてくれる」「日本人が集まらない夜勤やきつい仕事をやってくれる」といった経済的なメリットが強調されがちです。しかし、その「安さ」の裏に、ブローカーへの高額な手数料負担、過酷な労働環境、在留資格の偽装など、深刻な問題が潜んでいることも少なくありません。そして、万が一摘発された場合、企業は刑事責任だけでなく、社会的信用の失墜、取引先や金融機関からの評価低下、採用難・人材流出など、長期的なダメージを負います。「人手が足りないから」「周りもやっているから」といった短期的な理由でグレーな雇用に手を出すことは、経営全体にとって大きなリスクであることを強く意識すべきです。
まとめ:経営者こそ「知らないままにしない」覚悟を
毎日新聞の記事で報じられたケースは、決して特殊な例ではなく、どの業種・規模の企業でも起こり得る問題です。ポイントは、「本当に知らなかったかどうか」だけでなく、「知らないまま放置していなかったか」「確認すべきことを確認する体制を取っていたか」が問われるということです。経営者としては、外国人雇用を行う以上、「在留資格と業務内容の整合性をチェックする」「怪しい話には飛びつかない」「現場任せにしない」という基本を徹底しなければなりません。不法就労助長は、意図的な関与だけでなく、無関心や油断からも生まれます。「知らなかった」では済まされない時代だからこそ、自社の雇用のあり方をあらためて点検し、法令遵守と人権尊重の両立を図ることが、これからの経営に求められているのではないでしょうか。
