[ブログ]「移民」を再定義し、議論を前へ進めるための言葉とは

2025-11-12

まず前提として、日本では人口減少と深刻な人手不足を背景に外国人労働者が増加し続けています。しかし制度上は「移民を受け入れていない」ことになっており、実態としては移民に相当する人々が生活しているにもかかわらず、「移民政策」が体系的に整備されていない状況にあります。この点についてはこちらの記事でも丁寧に指摘されています。問題は制度上の空白だけでなく、「移民」という言葉自体が強い心理的反応を引き起こしやすいという点です。「移民」という言葉は、単に人の移動や新しい生活の開始を意味するだけではなく、「文化の変容」「治安への不安」「社会に溶け込めるのか」といった、漠然とした恐れを喚起しがちです。ここに、議論が理性的でなく感情的な方向へ流れやすい理由があります。では、私たちはこの言葉をどのように再定義し、どのような語を使えば、より建設的でバランスの取れた議論が可能になるのでしょうか。

「移民」という言葉が持つ歴史的背景

「移民」という言葉は、日本において定住・永住を前提とした外国人を指す場合に使われることが多く、そこには「長く日本に住む」「生活を共にする」「文化的影響を与え合う」といったニュアンスが含まれます。これは確かに本質的な意味では正しいのですが、過去の社会変動や国際的な報道が積み重なり、「移民=制御できない流入」「価値観の衝突」「治安悪化」などのイメージが付着してしまっています。その結果、政策議論より先に「感情的な拒否反応」が立ち上がり、合理的な判断が阻害されるという問題が生じます。

議論を前に進めるために言葉を再編する

ここで重要なのは、単に「言い換えればよい」という話ではなく、「定義を明確にし、対象や役割に応じた分類の言葉を用いる」ということです。例えば欧州では「労働移動者(Labour Migrant)」「国際学生(International Student)」「定住希望者(Settlement Seeker)」など、目的と滞在性質に応じた多層の分類が一般的です。それに対して日本では「外国人=移民か外国人労働者か」という非常に粗い二分法で語られることが多く、これが議論の粗さ、そして不安の源泉ともなっています。

提案したい新しい語:『定住型外国人』『共生人材』『地域参加型外国人』

例えば「移民」を次のように再整理することが考えられます。①定住型外国人:日本で中長期的に生活基盤を持ち、地域社会に参加する人々。②共生人材:経済だけでなく、地域社会で協働や参加を行うことが期待される人材。③地域参加型外国人:就労に加えて、地域生活への参加が制度的・意識的に支えられている人々。これらの言葉は、「外国人=外部の存在」という線引きを弱め、むしろ「社会の構成員」「私たちとともに生活する人」という視点を強調することができます。

言葉を変えることは、現実を“見えるようにする”こと

ここで重要なのは、「言葉を柔らかくして誤魔化す」ことではありません。むしろ逆で、「現実に即した区分で社会の実態を認識できるようにする」ことです。言葉は思考の枠組みを形作ります。「移民」という言葉が不安を過剰に刺激するなら、その不安を減らすための新しい認知枠組みを社会に提供することは、健全な議論のために必要な措置です。

国民的議論を感情ではなく理解の基盤に立たせるために

議論が感情的な拒否・肯定の応酬に終始すれば、政策は前に進まず、社会の分断が深まります。そこで必要なのは、「誰がどのように暮らしており、その中でどのような利点・課題が生まれているのか」を、当事者と地域、行政、企業がともに認識する対話の場です。特に自治体レベルでの情報共有や住民参加型の討議などは非常に有効です。「外国人」や「移民」を一括りにしないこと。意見の違いを恐れず、しかし相手の生活実態を理解する姿勢を忘れないこと。この二点は議論の基盤として不可欠です。

まとめ:言葉が変われば議論が変わる

日本が「移民を受け入れている現実」を可視化し、そのうえで制度を整備するためには、まず言葉の再編が必要です。「移民」という言葉を「定住型外国人」「共生人材」「地域参加型外国人」など、より具体的でニュアンスの過剰な恐怖を伴わない語に置き換えることは、国民的議論を冷静で建設的な方向へ導く手段となり得ます。言葉は現実を形作り、また現実認識を方向付けます。だからこそ私たちは言葉から変えていく必要があります。それは、受け入れる・受け入れないという二項対立を超え、「どのように共に暮らしていくか」を問うための第一歩です。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。