[ブログ]在留ベトナム人の「日本法律クイズ」試みは、雇用主の視点でも“共に歩む”実践だ

2025-10-31

記事の要約

在日ベトナム大使館と警視庁が協力して「日本法律クイズコンテスト2025」を開催し、今年は約8,460人が参加しました。目的は、日本の法制度への理解を高め、在留外国人が安心して暮らせる共生社会ひいては地域社会づくりに寄与することです。日本国内の在留外国人数は約396万人、そのうちベトナム出身者が約66万人と増加傾向にあり、生活や就業の現場でのルール理解の重要性が増しています。

この試みが“共生”の理念に沿っている理由

「共生」という言葉はよく使われますが、実務現場では「異文化の人たちを迎え入れて終わり」ではなく、「共に安心して働き暮らせる場をつくる」ことが本質でしょう。クイズ企画は、ただ学ばせるというよりも、「楽しみながら」「自分ごととして」法制度を理解できるように設計されています。雇用主としては、こうした“入口”を自社でも用意することで、外国人社員だけでなくチーム全体が同じルール・価値観を共有する土台を築けます。

雇用主にとっての実践メリット

まず、就業・生活トラブルの減少です。言語・文化の壁が原因で起きる、交通法違反・労働条件の誤認・消費トラブルなどを、学びの機会で未然に防げます。次に、現場の安定化。外国人社員が安心して働けると、離職が減り、紹介や再応募につながりやすくなります。最後に、チームの信頼感と企業価値の向上。地域社会から「外国人が来てもきちんと教育している会社」と認められることは、採用ブランディングにも好影響を及ぼします。

すぐ使える5つのアクション

①「入社初週ミニメモ」的に、交通・労働・個人情報・住居・相談窓口など10のポイントを母語+やさしい日本語で配布。②1~2分の動画を用意し、スマホ視聴可能とする。③各ポイントに3問程度のクイズをつけ、合格基準を設定。④合格者には「現場ルールバッジ」を配り、今日学んだ人をチーム朝礼で祝福。⑤月1回、朝礼でクイズ振り返りと相談窓口の案内を行う。これだけでも“教育”が習慣になります。

社外との連携で負担軽減

教材作成やイベント運営を一社で全部抱え込むのは難しいかもしれません。その場合は、地域の外国人コミュニティ、登録支援機関、自治体、多言語相談窓口と共催で「法令クイズデー」を開いてみましょう。会社は会場提供・制度説明・景品を担当し、支援機関や通訳が内容準備と集客を担う。こうして「会社だけの研修」ではなく「地域とともに学ぶ場」になり、外国人社員本人だけでなく地域の信頼も生まれます。

評価と記録で“仕組み”にする

受講・合格・再挑戦の記録を人事台帳に紐づけて管理し、指導前後でのヒヤリ・ハラスメント・品質クレーム・事故数の変化をモニタリングしてください。教育活動を単発ではなく「改善プロセス」と捉えることで、チームが学びを自走できるようになります。管理職要件に「教育・定着支援実績」を加えれば、現場の育成マインドが強化されます。

教育=監視ではなく、安全・尊厳の基盤です

法令教育を「ただ監視するためのもの」と捉えてしまうと、現場の信頼を失いかねません。むしろ「正しい知識を提供することで、外国人社員自身を守る」という視点が重要です。契約、残業、パワハラ、交通、住まい――ひとつひとつ「知らなかった」を減らすことが、その人の安心と尊厳につながります。そして、企業がそれを意図していると伝われば、従業員の信頼は自然と深まります。

小さな工夫が大きな変化を生む

難しい言葉や専門用語を避け、イラストや図解、多言語で説明し、研修時間を長くしすぎず毎日の3分間に設ける。紙資料よりスマホで見られるショート動画、長時間講義よりクイズで楽しく学ぶ。こうした「やさしい設計」が、実は最も効果的です。雇用主ができることは、学びの「入口」を常に開けておくこと。そして、社員がそこを通れば、自ずと、自分自身の成長と会社の安全・品質がつながっていきます。

共生を理念ではなく“毎日の動き”に

「郷に入っては郷に従え」という言葉をネガティブに捉えるのではなく、「だから私たちが道しるべを用意しよう」と読めば、それが共生です。案内板を増やし、道を明るくし、迷ったらいつでも相談できる体制をつくる。今回のクイズ企画は、そのヒントを与えてくれています。学び・支援・称賛の積み重ねが、職場を強くし、地域の信頼を高め、企業価値そのものを守ります。共生は係り受けの言葉ではなく、設計と実践によって形になります。さあ、次の朝礼から一問目を一緒に。

Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。