[ブログ]「在留資格」と「ビザ」を混同しないために──外国人雇用の理解を深めよう
2025-10-29
最近、nippon.comの記事で「外国人の雇用 : 7割の企業が『在留資格の理解不十分』―言葉の壁と制度運用が課題」という調査結果が紹介されていました。東京都立川市のBIGIN行政書士事務所が実施したこの調査によると、全国の会社経営者や役員1000人のうち、現在外国人を雇用していると答えたのは26.8%、今後の雇用を検討している企業を含めても32.5%にとどまっています。つまり約7割の企業が外国人雇用について「検討予定なし」または「未定」と回答しており、外国人雇用の広がりはまだ限定的です。外国人を雇用している企業の理由としては、労働力不足の補充が42.1%、特定のスキルや知識の活用が38.4%、海外展開への対応が36.5%と続いており、人手不足解消だけでなく、専門性や国際対応力を求めた採用も増えています。しかし一方で、8割以上の企業が何らかの懸念を抱えており、特に「言語や文化の違い」と「在留資格手続きの複雑さ」が3割を超えて課題として挙げられました。つまり、コミュニケーションの壁と法制度の理解の両面で多くの企業が苦戦しているということです。さらに、「在留資格制度」について理解していると答えた企業は「ある程度」を含めても32%にとどまり、実際に外国人を雇用している企業の中でも23.8%が理解不足を感じています。更新忘れや不法就労を防止するために社内ルールを整備したり、行政書士など外部専門家と連携したりする企業もある一方で、17.1%の企業は特に対策を取っていないとのこと。これらの結果は、外国人雇用が拡大する中で、制度理解の不足が依然として大きな課題であることを示しています。
「ビザ=在留資格」と思っていませんか?
こうした理解不足の背景には、「ビザ」と「在留資格」を同じものとして扱う風潮もあると私は感じています。多くの企業で「ビザを取ってもらう」「ビザ更新を手伝う」という言葉が日常的に使われていますが、実際にはビザ(査証)と在留資格は全く異なるものです。ビザは日本への入国を許可するために、海外の日本大使館や領事館が発行するもの。一方で、在留資格は「日本でどんな活動をしていいか」を定める資格であり、入国管理局(出入国在留管理庁)が判断・付与します。たとえば、特定技能、技術・人文知識・国際業務、経営・管理といった在留資格は、それぞれ働ける職種や業務内容が法律で明確に定められています。つまり、ビザは日本に「入るためのチケット」、在留資格は「日本で過ごすためのルール」と考えると分かりやすいでしょう。ここを混同してしまうと、知らず知らずのうちに資格外活動になってしまうこともあり、企業にも本人にもリスクがあります。
なぜ混同が起こるのか
「ビザ」という言葉の方が一般的で、分かりやすい響きを持っているのが一因でしょう。メディアや求人広告でも「ビザサポートあり」「ビザ更新OK」と書かれることが多く、自然とその言葉が定着しています。しかし、この「わかりやすさ」が逆に誤解を広めてしまっています。制度上は「ビザ」と「在留資格」は明確に区別されていますが、現場では曖昧なまま使われることが少なくありません。たとえば、外国人社員の在留資格が「技術・人文知識・国際業務」であれば、ホワイトカラー系の業務しかできません。それにもかかわらず、現場の都合で単純労働的な仕事を任せてしまうと、結果的に不法就労扱いになってしまうこともあります。つまり、「どの在留資格でどんな仕事ができるのか」を理解していないと、知らずにルール違反をしてしまう可能性があるのです。
雇用主としての基本理解が信頼を生む
外国人を雇用する企業にとって、在留資格の理解は単なる法律知識ではなく、信頼関係のベースになります。「うちは専門家に任せているから大丈夫」と思うかもしれませんが、実際の現場では担当者が日々の勤務内容や業務範囲を把握しています。入管手続き自体は行政書士などがサポートできますが、業務内容が資格の範囲に合っているかを判断するのは最終的に企業です。そのためにも、採用前の段階から「この職種はどの在留資格に該当するのか」「業務内容をどう説明すれば入管が理解してくれるか」を社内で共有しておくことが大切です。さらに、在留カードの有効期限や更新スケジュールの管理をシステム化するなど、日常的な運用の中に「在留資格」を意識する仕組みを組み込むことが重要です。
「ビザサポート」から「在留資格支援」へ
これからの外国人雇用において、企業が目指すべきは「ビザサポート企業」ではなく「在留資格支援企業」です。言葉の違いのように聞こえますが、意識の違いは大きいです。単に書類を整えるだけでなく、在留資格制度を理解し、外国人社員が安心して働ける環境を整えることが本当の意味でのサポートです。たとえば、特定技能で働く人には生活支援や相談体制の整備が法律で義務付けられていますし、他の在留資格でも、会社としての理解やフォローが外国人社員の定着率に直結します。「在留資格」という言葉を日常的に意識することで、会社全体の意識も自然と高まり、トラブル防止や信頼向上につながります。
まとめ:制度を理解することは“やさしさ”
外国人を受け入れる企業が増える中で、「在留資格の理解不足」という課題は決して他人事ではありません。nippon.comの記事で紹介されたように、制度理解が十分でないまま採用を進める企業が多い現状では、今こそ「正しい知識を持つこと」が大切です。そして、その第一歩が「ビザ」と「在留資格」をきちんと区別して考えることだと私は思います。 在留資格を理解するということは、ただ法律を学ぶことではなく、外国人社員を尊重し、安心して働ける環境を作るための「やさしさ」でもあります。これから外国人雇用を検討する企業の皆さんには、ぜひこの視点を大切にしてもらえたらと思います。
