[ブログ]移民・人種・低賃金労働から学ぶこと:Cornell Chronicleの記事からの示唆

2025-10-23

アメリカの研究から、日本の職場でも参考になる点が多く見つかります。Cornell Chronicleの記事(「Book examines immigration and race in the low-wage workplace」(2025年10月20日))によれば、低賃金の移民労働者が職場で受ける「尊厳を損なう扱い」「権力の乱用」「不安定な雇用」といった問題が根強く存在すると指摘されています。

我が国への示唆 — なぜ他人事ではないのか

日本でも技能実習生や留学生、特定技能等で働く外国人が増えています。国が制度を通して受け入れる一方、雇用の実態は「言語的・制度的な壁」「雇用の不安定さ」「違法な低賃金や長時間労働」によって、当事者の交渉力が弱まる恐れがあります。報告で示されたように、身分の不安定さが「我慢」を生み、尊厳の侵害が放置されやすくなる点は日本でも起こり得ます。

雇用主が気をつけるべきこと(短く明確に)

・身分・国籍を理由に差別・侮辱的な発言や扱いをしない。
・雇用契約と労働条件を明文化し、本人の母語や分かりやすい日本語で説明する。
・労働法・社会保険の適用を怠らない(書面・記録を残す)。
・移民関連の情報を過度に利用して威圧しない(行政への通報は法的義務があれば別)。
・職場の安全衛生を優先し、危険作業には十分な教育と設備を。

具体的に今すぐ実施できること(チェックリスト)

1) 契約書テンプレートの整備:就業時間、賃金、休暇、解雇事由などを日本語と該当者の母語で用意。行政書士が翻訳チェック・法的整合性を確認します。
2) オリエンテーションの実施:雇用開始時に職務内容・安全教育・相談窓口を説明(動画や図解の併用推奨)。
3) 匿名通報・相談窓口:ハラスメントや賃金未払いを通報できる匿名窓口を設け、報復禁止のルールを明記。
4) 定期的な労務監査:勤怠、賃金台帳、社会保険加入状況を第三者(社労士や行政書士)と一緒に点検。
5) 管理職の研修:多文化理解、差別禁止、コミュニケーション技術を学ぶ短時間研修を導入。
6) 書類取扱いの注意:在留カード等を理由に従業員を威圧したり、私的に保管・提示を強制したりしない(雇用主が不当に「移民の取り締まり役」にならない配慮)。※米国の研究は雇用主が“mini-immigration enforcers”になっている点を警鐘しています。

労務・法務面でのやってはいけないこと

・口頭だけの約束で労働条件を曖昧にする。・入国管理や在留資格の不安を利用して不当に低い賃金で働かせる。・相談者に対する報復(解雇・シフト減など)。・安全措置を怠ること(言語が原因で指導を省略しない)。これらは労基署や監督機関からの指導・罰則の対象になります。

制度の穴を埋めるために雇用主ができる「ちょっとした工夫」

・業務マニュアルを簡潔な表現と図で作る。・就労ルールを社内掲示(多言語)して透明化。・月1回の「声を聴く時間」を設け、通訳を同席させる。・地域の外国人支援団体や行政(労働局、入国在留窓口)と連携して相談ルートを確保。こうした工夫は職場の信頼を高め、離職率低下や事故防止につながります。

行政書士として雇用主にできるサポート

私たち行政書士は、在留資格や労働契約書作成、外国人との契約文書の翻訳・説明、行政機関への申請補助などで役に立てます。特に「在留資格の専門的判断」は行政書士の適切な対応が重要で、誤った対応が従業員の不安を招きかねません。行政書士と社労士・弁護士と連携することで、リスクを減らしつつ人材を活かす職場運営が可能です。

最後に — 小さな投資が大きな安定を生む

研究が示すように、低賃金労働の現場では「尊厳の欠如」と「制度的な力の不均衡」が問題を悪化させます。雇用主が意図的に高潔である必要はありませんが、明確なルールと安全網(契約・通報窓口・外部相談先)を整えることは、訴訟リスクや行政処分の回避だけでなく、職場の生産性向上にもつながります。気軽に相談してください — 契約書のひな型作成や在留資格の確認、職場ルールの言語化など、一緒に始めましょう。


Kenji Nishiyama

筆者:西山健二(行政書士 登録番号 20081126)

外国人の在留資格をサポートしてきた行政書士。事務所サイトでは、在留・入管に関する最新ニュースや実務のヒントを毎日発信中。外国人雇用にも詳しく、企業の顧問として現場のサポートも行っている。